Lektion 1 動詞の現在人称変化(1)

人称と人称代名詞

「人称」には1人称,2人称,3人称があります。「1人称」は「話している人」や「(その文章を)書いている人」,「2人称」は「聞いている人」や「(その文章を)読んでいる人」,「3人称」はそれ以外の人や物すべて(会話や文章で話題になっている人や物)のことです。では,ドイツ語の人称代名詞を見てみましょう。( )は対応する英語です。

英語で「私」を意味する I はいつも大文字ですが,ドイツ語の ich は文頭以外では小文字で書きます。

ドイツ語の2人称には,英語にはない「親称」と「敬称」という区別があります。親称の du / ihr はファーストネームで呼べる親しい人に対して使い,それ以外の人には敬称の Sie を使います。(詳しい説明は下の「2人称敬称と2人称親称」を見て下さい。)

2人称敬称の Sie は単数・複数が同形で,文頭以外でも常に語頭を大文字で書きます。

規則動詞の人称変化

ドイツ語の動詞は主語に合わせて形が変わります。と言っても変わるのは語尾の部分だけです。この語尾のことを人称語尾,主語に合わせて変化した動詞の形を定形(人称変化形)と呼びます。人称変化していない動詞の形は不定形です。不定形は英語の原形,日本語の終止形にあたる動詞の基本形です。

ドイツ語の人称語尾は,–e, –en, –t, –st の4種類です。この表で網かけになっている部分は常に同じ形(=不定形と同じ)になることを覚えておいて下さい。

主語が変わっても変化しない(教科書の表で太字になっている) wohn の部分が語幹です。つまりドイツ語の動詞は語幹語尾からできているわけですね。

英語では人称語尾が退化しているので,語尾として残っているのは3人称単数の -s だけですが,英語以外のヨーロッパの言語(ドイツ語,フランス語,イタリア語,スペイン語,ロシア語…)では,どの言語でも主語に合わせて動詞の形が変わります。

英語の動詞の原形には語尾がないので,plays のように3人称単数の人称語尾を原形に直接つけますが,ドイツ語の不定形はすでに –en という語尾を持っているので,不定形にさらに語尾をつけるのではなく,不定形の語尾を取った語幹に人称語尾をつけて下さい。

英語とドイツ語で同じ形をしている動詞,例えば

   sing   singen  歌う
   find   finden  見つける

を見れば,ドイツ語の動詞の不定形には英語にはない –en という語尾がついていることがよくわかりますね。

それでは例文を見てみましょう。trinkenは「飲む」,machenは「する」,heißenは「…という名である」という動詞です。

 Er wohnt in Berlin.
   彼はベルリンに住んでいる。
 Trinken Sie Kaffee? 1)
  あなたはコーヒーを飲みますか?
 Ja, ich trinke Kaffee.
  はい,私はコーヒーを飲みます。
 Nein, ich trinke Tee.
  いいえ,私は紅茶を飲みます。
 Was machen sie hier? 2)
  彼らはここで何をしているんですか?
 Wie heißt du? 3)
  君の名前は?

1) 疑問文は主語と動詞を倒置して作ります。英語の do, does, did のような助動詞はつかいません。疑問文については Lektion 7 で詳しく扱います。
2) was は英語の what に当たる疑問詞です。疑問詞を使う疑問文は「疑問詞+動詞+主語+…?」という語順になります。

3) 語幹が -s/-ß/-z で終わる動詞は主語が du のときの人称語尾が -t になります。

2人称敬称と2人称親称

ドイツ語の2人称の人称代名詞には敬称の Sie (「あなた」「あなた方」) と,親称の du (「君」)と ihr (「君たち」) があります。Sie は初対面の人や,「名字+さん」で呼ぶ相手に対して使います。Sie は単数・複数が同形で,文頭以外でも常に語頭を大文字で書きます。du / ihr は家族,恋人,友人などのファーストネームで呼べる人に対して使います。ただし,子供 (だいたい15才以下) に対しては, (知らない子でも) du です。また大学生同士も初対面から du で話します。大人同士は最初は Sie を使い,親しくなったら du に移行します。

英語以外のヨーロッパ言語では,ドイツ語と同じく2人称に敬称と親称の区別があります。 例えばフランス語では「あなた」が vous,「君」が tu,オランダ語では,u と jij になります。

以下の例文の和訳で Sie と du の違いを確認してみましょう。主語が du のときの動詞の語尾は –st です。

 Woher kommen Sie?    
   どちらのご出身ですか?
 Woher kommst du?     
   出身はどこ?
 Wohnen Sie in Fukuoka?  
   お住まいは福岡ですか?
 Wohnst du in Fukuoka?   
   福岡に住んでるの?

ドイツ語には3種類のSieがある!

ドイツ語には sie という代名詞が3つあるので注意が必要です。

① 英語の she にあたる sie=「彼女は」←人称語尾は –t
……………………………………………………
② 英語の they にあたるsie=「彼ら(彼女ら/それら)は」←人称語尾は −en
③ 英語の you にあたる Sie=「あなた(方)は」←人称語尾は −en

この3つの sie のうち,①と②,③は動詞の人称語尾で区別できます(①の「彼女」は –t,②の 「彼ら」と③の「あなた」は –en
 「彼女」の sie は,他の2つとは全く別のものです。はっきり区別して下さい。①と②,③が同じ形をしているのは単なる偶然です。
 それに対して「彼ら」の sie と「あなた」の Sie が同じ形をしているのは偶然ではありません。実は「あなた」のSieは「彼ら」の sie を転用して作った形です。だから動詞の人称語尾も「彼ら」の sie と同じになり,耳で聞いた場合は区別できません。書く場合は「あなた」の Sie は語頭の S を常に大文字で書きます。
 次の3つの文を見てみましょう。

 1) Sie kommt aus Wien.
 2) Sie kommen aus Wien.
 3) Kommen Sie aus Wien?

1)は –t という語尾から「彼女」の sie であることが分かります。「彼女はウィーン出身です」という意味ですね。2)は語尾が –en なので,「あなた」「あなた方」「彼ら」の可能性があります。文脈がないと決められません。3)も語尾は –en ですが,文中なのに Sie の語頭が大文字になっているので「あなた」か「あなた方」です。

規則動詞の現在人称変化のQ&A

Q
動詞の人称変化をまだ覚えてないのですが,これはやっぱり覚えないとダメですか?
A

「えっと主語が ich だから人称語尾は…あっ e だ!」と毎回考えていたのでは話すことはできません。何度も練習して無意識のうちに出てくるようにする必要があります。単語は無数にありますが,動詞の人称変化は有限です。必ず覚えましょう。Web Drill も活用して下さい。

Q
定形と不定形が何であるのかイマイチ分かりません。ある動詞が文中に使われた瞬間にその動詞は定形であると言えるということですか?
A

そうです(ただし動詞が助動詞や他の動詞と一緒に使われる場合は不定形のまま使われます)。不定形の「不定」,定形の「定」というのは,それぞれ主語が定まっていない(不定)と主語が定まっている(定)という意味です。英文法の用語では不定形は「原形」,定形は「人称変化形」です。「定形」という用語が分かりにくければ「人称変化形」と読み替えて下さい。

Q
動詞の不定形はどんな時に使うのですか?
A

不定形は英文法で言う「動詞の原形」です。英語で「原形」を使う場合に,ドイツ語では不定形を使うと考えて下さい。具体的には,辞書の見出し語として用いられる他,助動詞とペアで使われますし,助動詞以外の動詞と共に使われる場合には英語の to に当たる zu と一緒に「zu 不定形」(英語の「to 不定詞」ですね)として使われます。

Q
ある教科書に現在人称変化の覚え方として「ich から sie までの動詞の人称語尾だけを並べて『エストテンテン』と覚えましょう」と書いてありますが,これは有効な覚え方ですか?
A

これは悪い覚え方です。こんなやり方で覚えたとしても使えるようにはなりません。古文の動詞の4段活用を「かきくくけけ」と覚えて古文ができるようになりましたか? 実際の文をたくさん読んだり聞いたりして自然に身につけるのがいい覚え方です。

Q
「彼」や「彼女」は3人称だと習いましたが,1人なのにどうして3人称なんですか?
A

これは「3人称」という文法用語に問題があります。「3人称」はドイツ語では「die dritte Person」英語では「the third person」で,どちらも「3」の部分は序数です。つまり「第三の」という意味なので,本当は「第三人称」と呼ぶべきなのです。「第三者」とか「第三の男」というときの「第三」です。私(話し手)とあなた(聞き手)以外の「第三の人物や物」を指すのが「第三人称」なので,人数は関係ありません。

Q
4人称や5人称はありますか?
A

ありません。話し手・書き手(=1人称)と聞き手・読み手(=2人称)以外の人や物は全て3人称です。ドイツ語では1人称は ich と wir,2人称は,du, ihr, Sie という人称代名詞に限られ,それ以外の名詞や代名詞は全て3人称です。あとは全部3人称になるのですから当然「4人称」等は存在しません。

Q
du と Sie はどのように使い分けるのですか?
A

Herr Meier, Frau TanakaのようにHerr / Frau+名字で呼びかける相手にはSieを使います。初対面の人,上司,先生,お店の人など,日本語なら丁寧語や敬語で話す相手です。それに対して友人,恋人,家族など,Peter, Monikaのように名前で呼ぶ相手(日本語だったら名字の呼び捨ての場合もありますね)にはduを使います。タメ口でもOKな相手と言ってもいいです。また15才以下の子供には初対面でもduです。大人は最初はSieで,親しくなったら「これからはduで話しましょう」と言ってduになります。

※ドイツ語の授業では Sie は「あなた」,du は「君」と説明されますが,いつも「あなた」や「君」と訳せるわけではありません。ドイツ語では息子は父親に向かって du を使います。この du は「君」ではなく「親父」とか「パパ」とか「とうちゃん」と訳す必要があります。ただし和文独訳では「あなた」は Sie,「君」は du というのが「お約束」なので,和文独訳の問題で「あなた」と書いてあれば Sie,「君」だったら必ず du を使って下さい。

Q
Sie と sie が「あなた(方)」と「彼女」と「彼ら」という使い方があって混乱しそうです。
A

見分け方のポイントは
 1) 動詞の語尾が –t だったら必ず「彼女」です。
 2) 文中で Sie のように S が大文字になっていたら必ず「あなた(方)」です。
 3) …あ,もうありません(^^;)。後は文脈で判断ですね。

Q
なぜドイツ語では英語の she, they, you に当たる語がすべてsieになっているのですか?
A

英語の she に当たる sie と英語の they に当たる sie が同じ形をしているのは偶然ですが,2人称敬称の Sie は3人称複数の sie (英語のthey)を借用して作ったものです。かつては2人称親称複数の ihr(君たち)や3人称単数男性形の er が Ihr, Er と大文字で書かれて2人称敬称として使われていた時代もありました。詳しくは以下のURLを見て下さい。
http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2015-02-02-1.html

Q
名前を尋ねるときに「どのように」という意味の wie を用いて,Wie heißen Sie? と言うのはどうしてですか? この Wie を Was に置き換えることは可能ですか?
A

A: wie は英語の how に当たる疑問詞です。Wie heißen Sie? は「あなたのお名前は何ですか?」という意味なので,英語の what に当たる was を使いたくなりますが,Was heißen Sie? とは言えません。heißen(…という名である)という動詞は日本語にも英語にもないので,少し分かりにくいかもしれませんが,「…という名である」は「…と呼ばれている」と考えて下さい。そうすれば Wie heißen Sie? は「あなたはどのように呼ばれていますか?」になるので wie を使うのも納得できると思います。heißen を英訳するときには実際に be called が使われ,その疑問文は How are you called?how を使います。