Lektion 10 話法の助動詞

話法の助動詞」とは,話し手(書き手)の感情,判断,意見などのニュアンスを文に付け加える助動詞のことで,英語の can,may,must などに当たるものです。ちなみに「話法の助動詞」以外の助動詞には「完了の助動詞」や「受動の助動詞」があります。

英語との共通点と相違点

共通点:助動詞を用いた文(=助動詞構文)では本動詞は人称変化しない基本形になります。英語では 「原形」,ドイツ語では「不定形」と呼ばれる形ですね。

英語と異なる点:次の2点が英語とは異なります。

① 英語では助動詞は3人称単数でも変化しませんが,ドイツ語では助動詞も人称変化します

② 英語では助動詞の直後に本動詞が置かれますが,ドイツ語では本動詞の位置は文末です。これは「定形(ここでは助動詞)と最も強く結びつく要素が文末に置かれる」というドイツ語の語順の規則によるものです。第2位に置かれた定形文末の不定形が枠を作って,文頭の成分以外はすべてこの枠の中に入るので,これを「枠構造」と呼びます(→教科書S.64)。

話法の助動詞の人称変化

話法の助動詞は上の表のように人称変化します。網掛け部分が不定形と同じ形になるのは普通の動詞の場合と同じですが,次の2点が規則動詞の人称変化とは異なります。

① ich と3人称単数の人称語尾がない。ich と er/sie/es は同じ形になる。

② 主語が単数(ich, er, du 等)のときは語幹の母音が不定形とは違う音になる。

例えば ① können の場合は ich と er/sie/es が両方とも人称語尾のない kannという形になっていること,② ich, er/sie/es, du のところでは語幹の母音が,不定形のではなく,a になっていることを確認して下さい。(ただし,sollen と möchten の語幹の母音は変化しません

話法の助動詞の意味と用法

それでは個々の助動詞の意味と用法を1つずつ見て行きましょう。助動詞構文では本動詞の不定形(以下の例文では水色の太字が文末に置かれることを確認して下さい。

können
 英語の can に相当する助動詞で「…ができる」という意味です。

 Er kann das Lied auf Deutsch singen.
  彼はその歌をドイツ語で歌うことができる。

dürfen
 英語の may に相当し「…してもよい」という意味になります (許可)。

 Darf ich hier rauchen?
  ここでタバコを吸ってもいいですか?

否定にすると「…してはいけない」になります (不許可=禁止)。
 Hier darf man nicht fotografieren.
  ここは撮影禁止です。

英語では「…してはいけない」という禁止は must not ですが,ドイツ語では must にあたる müssen ではなく,dürfen + nicht で禁止を表わします。

英語の may には「…かもしれない」という意味もありますが,dürfen にはこの意味はありません。

müssen
 英語の must に相当し「…しなければならない」(義務/必要) または「…に違いない」(推量) という意味になります。

 Ich muss heute zum Zahnarzt gehen.
  私は今日歯医者に行かなければならない。

 Er muss müde sein.
  彼は疲れているに違いない。

否定にすると「…する必要はない」になります。(必要の否定=不必要)
 Morgen muss ich nicht zur Uni gehen.
  明日は大学に行かなくていい。

wollen
 wollenは「…するつもりだ」という意志を表わす助動詞です。語源的に英語の will に対応する助動詞ですが,英語の will には「単純未来」「推量」「意志」などの用法があるのに対して,wollen は「意志」だけで,「単純未来」や「推量」の用法はありません。ドイツ語では「単純未来」は動詞の現在形で表わし,「推量」には werden という助動詞を使います(→教科書S.56)。wollen は常に「…するつもり」です。

 Sie will im März nach Berlin fahren.
  彼女は3月にベルリンへ行くつもりだ。

Wollen wir …? の形で「一緒に…しましょうか?」という意味になります。英語の Let’s … にあたる表現です
 Wollen wir Tennis spielen?
  テニスをしましょうか?

mögen
 英語の may のもう一つの意味「…かもしれない」を表わすのが mögen です。

 Er mag krank sein.
  彼は病気かもしれない。

sollen
 wollen が「主語の意志」を表わすのに対して,sollen は「主語以外の意志」を表わします。

 Er soll Arzt werden.
  彼は医者になるように言われている。
「医者になる」のは主語(=er)の意志ではなく,例えば親の意志

英語の should「…すべきだ」と同じ用法もあります。
 Was soll ich machen?
  私は何をしたらいいのだろう?

Soll ich …? の形で「私が…しましょうか?」という意味になります。英語の Shall I …? ですね。
 Soll ich das Fenster aufmachen?
  窓を開けましょうか?

sollen は主語が単数でも語幹の母音は変わりません。

möchten
 英語の would like to に相当し「…したい」という意味になります。would like to は仮定法ですが,実は möchten も普通の助動詞ではなく,英語の仮定法にあたる接続法(→教科書S.52)という形です。would like to と同じく möchten も「もしご迷惑でなかったら」というような仮定を含んだ表現なので丁寧な言い方になります。

 Ich möchte Kaffee trinken.
  コーヒーをいただきたいのですが。

möchten も sollen と同じく主語が単数でも語幹の母音は変わりません。

話法の助動詞の疑問文と否定文

疑問文
疑問詞のない疑問文は,[助動詞+主語+…+本動詞?],疑問詞がある疑問文は,[疑問詞助動詞+主語+…+本動詞?]という語順になります。

 Kannst du Arabisch sprechen?
  アラビア語話せる?

 Warum muss sie heute zu Hause sein?
  なぜ彼女は今日家にいなければならないの?

否定文
否定文は,否定する語(句)の直前に nicht を置きます。
 Morgen kann ich nicht kommen.
  明日は来れません。 kommen の否定

 Er kann nicht schnell schwimmen.
  彼は速く泳げません。 <schnell の否定

 Ich will nicht mit dem Bus fahren.
  私はバスでは行きたくない。 
        mit dem Bus の否定

話法の助動詞の単独用法

話法の助動詞は本動詞と組み合わせて使うのが基本ですが,本動詞を省略しても意味が通じる(=省略されている本動詞が容易に想起できる)場合は単独で使うことができます。以下の文では( )に入れた本動詞は省略可能です。

 Ich möchte einen Kaffee (trinken).
  私はコーヒーが飲みたい.

 Ich muss schon nach Hause (gehen). 
  僕はもう家に帰らなきゃならない。

本動詞を言わないことで意味が広くなる場合もあります。Er kann Deutsch sprechen. だと「彼はドイツ語が話せる」なので,もしかしたら話せるだけで,読めないかもしれませんが,Er kann Deutsch. と言えば「彼はドイツ語ができる」で,基本的に読み,書き,話し,聞くことができることになります。

mögen を単独で使うと「…を好む」という意味になります。
 Sie mag kein Fleisch.
  彼女は肉は好きじゃない。

話法の助動詞のQ&A

Q
「ここで写真を撮ってもいいですか?」を “Kann ich hier fotografieren?” と言えますか?
A

「ここで写真を撮ってもいいですか?」という日本語の文は,許可を求める文なので,許可の助動詞 dürfen を使う必要があります。können は「可能性・能力」を表わす助動詞なので,”Kann ich hier fotografieren?” は「私はここで写真を撮ることができますか?」という意味です。つまり,「この部屋は暗くて,私のカメラにはストロボがついてないがちゃんと撮れるか?」とか「ツアーの出発時刻が迫っているが,ここで写真を撮る時間はあるか?」とか「ここは後ろが崖になっていて危険だが,ここで写真を撮っても大丈夫か?」というような場合なら “Kann ich hier fotografieren?” を使えますが,許可を求める場合は  “Darf ich hier fotografieren?” です。

Q
和文独訳の問題で「ここで泳いではいけません。」というのがありましたが,この文には主語がありません。ということは,これは不定句ですか?
A

ドイツ語で主語がなかったら不定句(もしくは命令文)の可能性がありますが,これは日本語なので,主語が明示されないのはよくあることです。「あなたは」とか「人は」という主語を補ってドイツ語に直して下さい。 
(あなたは)ここで泳いではいけません。
 Sie dürfen hier nicht schwimmen.
(人は)ここで泳いではいけません。
 Man darf hier nicht schwimmen.

あるいは hier を文頭に出して Hier dürfen Sie nicht schwimmen. / Hier darf man nicht schwimmen. として下さい。

Q
「ここで泳いではいけません。」は dürfen を使って Hier darf man nicht schwimmen. だと習いましたが,dürfen の代わりに können や müssen を使うことはできませんか?
A

文法的にはもちろん können や müssen も使えますが,意味が変わってしまいます。

können+nicht は「不可能」という意味なので,Hier kann man nicht schwimmen. は「水が冷たすぎる,流れが速すぎる,水深が深すぎる(もしくは浅すぎる),サメが出る,のような理由で泳げない」という意味になります。

müssen+nicht は「…しなくてよい,…する必要はない」という意味ですから,Hier muss man nicht schwimmen. は「ここでは泳ぐ必要がない」になります。

「…してはいけない」という禁止のときは必ず dürfen+nicht を使って下さい。英語の must not と異なりmüssen+nicht は「禁止」ではありません。

Q
「ここで泳いではいけません」を助動詞 dürfen を使わずに英語の Don’t swim here! のように書けませんか?
A

「禁止」を表わす表現はいろいろあります。英語の Don’t swim here! のような命令文ももちろん可能です。命令文だと
 Scwimmen Sie hier nicht!(Sieに対して)
 Scwimm hier nicht!(duに対して)
 Scwimmt hier nicht!(ihrに対して)
になります。立て札に書くのなら Schwimmen verboten!(遊泳禁止)の方が一般的です。
 命令文は(英語の Don’t swim here! も含めて)相手に対して「ここで泳ぐな!」と直接的にかなりきつく言うのに対して「ここで泳いではいけません」は,もう少しやわらかい表現なので,助動詞を使って書く方がいいでしょう。

Q
英語では「can youcould you にする,または will youwould you にすると,丁寧さが増す」と習いました。英語では時制をずらすことで,丁寧な表現や,婉曲を表す,と思うのですが,ドイツ語では助動詞を用いた,より丁寧な表現の仕方(より丁寧な依頼,婉曲表現等)はありますか?
A

英語の could you would youcould, would は(現在から時制をずらした)過去形ではなく仮定法です。ドイツ語も英語と同じで können を könnten という(英語の仮定法に当たる)「接続法」にすることで,「もしご迷惑でなかったら」「もし可能であれば」という仮定が含意され,丁寧あるいは婉曲な表現になります。例えば,英語の Can you open the window? Können Sie das Fenster aufmachen? で,Could you open the window?Könnten Sie das Fenster aufmachen? になります。この接続法の用法(=「外交的接続法」)については教科書S.53の plus 1 を見て下さい。

Q
wissen のように助動詞と同じように人称変化する動詞はほかにもありますか?
A

他にはありません。wissen だけです。

Q
助動詞が入ると不定句はどうなるのですか? 例えば「ここでテニスをすることができる」は,hier Tennis können spielen ですか?
A

いいえ違います。不定句の語順は日本語と同じなので,

ここで テニスを する ことができる
 ↓    ↓    ↓     ↓
 hier     Tennis   spielen   können

となります。そして文を作るときには,不定句で一番最後に置かれたもの(ここでは助動詞 können )が主語に応じて人称変化して2番目に置かれ,

 Ich kann hier Tennis spielen.

となって文が完成します。助動詞にとって一番大切なパートナーである本動詞が助動詞と遠く離れた文末に置かれるのは変だと思うかもしれませんが,不定句の段階では隣にあるんですね。