「話法の助動詞」とは,話し手(書き手)の感情,判断,意見などのニュアンスを文に付け加える助動詞のことで,英語のcan,may,mustなどに当たるものです(ちなみに「話法の助動詞」以外の助動詞には「完了の助動詞」や「受動の助動詞」があります)。
英語との共通点と相違点
★共通点:助動詞を用いた文(=助動詞構文)では本動詞は人称変化しない基本形になります。英語では 「原形」,ドイツ語では「不定形」と呼ばれる形ですね。
★英語と異なる点:次の2点が英語とは異なります。
①英語では助動詞は3人称単数でも変化しませんが,ドイツ語では助動詞も人称変化します。
②英語では助動詞の直後に本動詞が置かれますが,ドイツ語では本動詞の位置は文末です。これは「定形(ここでは助動詞)と最も強く結びつく要素が文末に置かれる」というドイツ語の語順の規則によるものです。第2位に置かれた定形と文末の不定形が枠を作って,文頭の成分以外はすべてこの枠の中に入るので,これを「枠構造」と呼びます。
話法の助動詞の人称変化
話法の助動詞は教科書S.28の表のように人称変化します。網掛け部分が不定形と同じ形になるのは普通の動詞の場合と同じですが,次の2点が規則動詞の人称変化とは異なります。
① ichと3人称単数の人称語尾がない。⇒ ichとer/sie/esは同じ形になる。
② 主語が単数(ich, er, du等)のときは語幹の母音が不定形とは違う音になる。
例えばkönnenの場合は ichとer/sie/esが両方とも人称語尾のないkannという形になっていること,ich, er/sie/es, duのところでは語幹の母音が,不定形のöではなく,aになっていることを確認して下さい。(ただし,sollenとmöchtenは語幹の母音は変化しません)
話法の助動詞の意味と用法
können
英語のcanに相当する助動詞で「…ができる」という意味です。
Er kann das Lied auf Deutsch singen.
彼はその歌をドイツ語で歌うことができる。
dürfen
英語のmayに相当し「…してもよい」という意味になります。
Darf ich Sie etwas fragen?
ちょっと質問してもいいですか?
★否定にすると「…してはいけない」になります。
Hier darf man nicht fotografieren.
ここは撮影禁止です。
★英語では「…してはいけない」という禁止は must notですが,ドイツ語ではmustにあたるmüssenではなく,dürfen+nichtで禁止を表わします。
★英語のmayには「…かもしれない」という意味もありますが,dürfenにはこの意味はありません。
müssen
英語のmustに相当し「…しなければならない」「…に違いない」という意味になります。
Ich muss heute zum Zahnarzt gehen.
私は今日歯医者に行かなければならない。
Er muss müde sein.
彼は疲れているに違いない。
★否定にすると「…する必要はない」になります。
Das musst du nicht machen.
それはしなくてもいいよ。
wollen
英語にはwollenに対応する助動詞はありません。wollenは「…するつもりだ」という意志を表わす助動詞で,英語ではwant toに相当します。(英語の助動詞willの「意志未来」と同じと考えてもいいですが,wollenには単純未来を表わす用法はないので注意して下さい。wollenはつねに「…するつもり」です。
Er will im März nach Deutschland fahren.
彼は3月にドイツへ行くつもりだ。
★Wollen wir …? の形で「一緒に…しましょうか?」という意味になります。英語のLet’s … にあたる表現です。
Wollen wir Tennis spielen?
テニスをしましょうか?
mögen
英語のmayのもう一つの意味「…かもしれない」を表わすのがmögenです。
Er mag krank sein.
彼は病気かもしれない。
sollen
wollenが「主語の意志」を表わすのに対して,sollenは「主語以外の意志」を表わします。
Er soll Arzt werden.
彼は医者になるように言われている。
この文では「医者になる」のは主語(=er)の意志ではなく,例えば親の意志ということになります。
★Soll ich …? の形で「私が…しましょうか?」という意味になります。英語のShall I …? ですね。
Soll ich das Fenster aufmachen?
窓を開けましょうか?
★sollenは主語が単数でも語幹の母音は変わりません。
möchten
英語のwould like toに相当し「…したい」という意味になります。would like toは仮定法ですが,実はmöchtenも普通の助動詞ではなく,英語の仮定法にあたる接続法(→教科書S.52)という形です。would like toと同じくmöchtenも「もしご迷惑でなかったら」というような仮定を含んだ表現なので丁寧な言い方になります。
Ich möchte Kaffee trinken.
コーヒーをいただきたいのですが。
★möchtenもsollenと同じく主語が単数でも語幹の母音は変わりません。
話法の助動詞の疑問文と否定文
疑問詞のない疑問文は,[助動詞+主語+…+本動詞?],疑問詞がある疑問文は,[疑問詞+助動詞+主語+…+本動詞?]という語順になります。
Kannst du Arabisch sprechen?
アラビア語話せる?
Warum muss sie heute zu Hause sein?
なぜ彼女は今日家にいなければならないの?
★否定文は,否定する語(句)の直前にnichtを入れます。
Morgen kann ich nicht kommen. <kommenの否定
明日は来れません。
Er kann nicht schnell schwimmen. <schnellの否定
彼は速く泳げません。
Ich will nicht mit dem Bus fahren. <mit dem Busの否定
私はバスでは行きたくない。