Lektion 11 分離動詞

分離動詞とは何か

まず次の文を見て下さい。

Er steht jeden Morgen um 6 Uhr auf.
 彼は毎朝6時に起きる。

ドイツ語では「動詞は2番目」なので,2番目にある steht が動詞ですね。不定形は stehen です。ところが stehen を辞書で調べると「立っている」と出ています。和訳にある「起きる」という意味はありません。これはどういうことでしょうか? さらにこの文をもう一度よく見ると,文末に auf がありますが,auf は確か前置詞だったはずです。前置詞は名詞のかれるから「前置詞」と言うのに,この auf の後ろには何もありません…。

実はこの文の動詞は stehen ではなく,aufstehen なのです。aufstehen は stehen という動詞に auf という前綴り(=接頭辞)がついた複合動詞です。aufstehen で辞書を引くと,確かに「起きる」と出ています。ドイツ語には,この aufstehen のように文の中で2つに「分離」する複合動詞がたくさんあります。これらを「分離動詞」と呼びます。

英語でも get (手に入れる)という動詞に up がつくと,get up (起床する) という別の意味になるように,stehen (立っている) に auf がつくと aufstehen (起床する)という別の動詞になるのです。

分離動詞は「接頭辞動詞本体」という構造になっています (aufstehen の場合だと aufstehen)。文の中で使われる際には,これが2つに分離します。動詞本体が主語に合わせて人称変化して,動詞の定位置である第2位に置かれ,接頭辞 (これを「分離前綴り」と呼びます) は文末に置かれます。ただし不定形では分離しないので,助動詞構文では aufstehen のようにくっつけて1語で書かれます。

辞書や教科書では分離動詞であることを示すために,分離前綴りと動詞本体の間 (つまり分離する部分ですね) に縦線を入れて「auf|stehen」のように書くことになっています。もちろん実際の文には,この縦線はありません。

 Er geht mit seiner Frau aus.  
  彼は奥さんと出かけます。 <aus|gehen

 Die Sitzung findet am Montag statt.  
  その会議は月曜日に開催される。 <statt|finden

分離前綴りはなぜ文末に置かれるのか?

auf|stehen は英語の get up にあたる動詞です。英語でも get (手に入れる)という動詞に up がつくと「起きる」という意味になりますが,英語の場合は常に get up という形なのに,どうしてドイツ語では auf と stehen に分離して,auf が文末に置かれるのでしょうか?

英語では動詞と最も密接に結びつく要素は動詞のすぐ後に置かれます。get up では getup がつくことで「手に入れる」から「起きる」に意味が変わるので,get の一番大事なパートナーは up です。したがって upget のすぐ後に置かれます。

それに対して,ドイツ語では動詞と最も密接に結びつく要素(=動詞のパートナー)は文末に置かれます。動詞の定形と文末に置かれた要素が枠を作って,文頭の成分以外はすべてこの枠の中に入る「枠構造」(→教科書S.64) です。分離動詞 auf|stehen の場合は stehen の一番大事なパートナーはもちろん分離前綴りの auf なので auf が文末に置かれるのです。

I get up at 6 o’clock every morning.
Ich stehe jeden Morgen um 6 Uhr auf.
   私は毎朝6時に起きる。

この文では steheauf が枠を作っています

分離前綴りの意味

分離前綴りは,元になった前置詞や副詞の意味を受け継いでいます。一番分かりやすいのは mit でしょう。mit は英語の with に当たる前置詞で「…と一緒に」という意味なので,前綴りとして mit がついた分離動詞も「一緒に…する」という意味になります。 

例:mit|arbeiten 一緒に働く,mit|kommen 一緒に来る,mit|singen 一緒に歌う,mit|spielen 一緒にプレイする

zurück (英 back )や weg (英 away )もすぐ意味が分かります。

例:zurück|kommen 戻って来る,zurück|geben 却する,zurück|schicken 送する,weg|gehen 立ち去るweg|nehmen 取り去る

他の前綴りにも意味があり,複数の意味を持つ前綴りもあります。前綴りの意味は辞書に載っています。ab.. an.. auf.. zu.. のように前綴りに[ .. ]をつけた見出し語として掲載されているので,気になった前綴りを調べてみて下さい。

分離動詞は分離前綴りにアクセントがある

分離動詞 auf|stehen を使った Er steht jeden Morgen um 6 Uhr auf. (彼は毎朝6時に起きる)という文では,分離動詞の動詞本体 steht にももちろんアクセントがありますが,分離前綴りの auf も steht と同じくらい強く発音するので,この文は Er steht jeden Morgen um 6 Uhr auf. のようなイメージで発音します。(文字が大きい所が強い)

分離動詞の疑問文と否定文

疑問文
・疑問詞のない疑問文は,主語分離動詞の動詞本体を倒置して作ります。[動詞本体+主語+…+分離前綴り?] という語順になります。文頭に置かれるのは「動詞本体 (分離動詞の後半部分) 」だけで,「分離前綴り」は文末に置かれることに注意して下さい。

 Steht er jeden Morgen um 6 Uhr auf?
  彼は毎朝6時に起きるのですか?

・疑問詞のある疑問文では [疑問詞動詞本体+主語+…+分離前綴り?] という語順になります。「分離前綴り」はやっぱり文末です。

 Wann findet die Sitzung statt?
  その会議はいつ開催されますか?

否定文
分離動詞全体を否定する場合は,nicht を分離前綴りの前に置きます。

 Ich gehe heute nicht aus.
  私は今日は外出しません。

部分否定の場合は,否定する語(句)の直前に nicht を置きます。

 Die Sitzung findet nicht heute statt.
  その会議は今日開催ではない。

不規則変化する分離動詞

不規則動詞に前綴りがついた分離動詞は,元の不規則動詞と同じ不規則変化になります。

 Der Zug fährt um 9 Uhr ab. 
  その列車は9時に発車する。 <ab|fahren
 Sie sieht asiatisch aus.  
  彼女はアジア人に見える。 <aus|sehen

ab|fahren は fahren と同じ fahren型の不規則動詞,aus|sehen は sehen と同じ sprechen型の不規則動詞です。

助動詞+分離動詞

分離動詞は不定形では分離しないので,助動詞と一緒に使うときは1語で書きます。

 Er muss morgen um 5 Uhr aufstehen.
  彼は明日は5時に起きなければならない。

分離動詞は,分離前綴りにアクセントが置かれるので,この文は Er muss morgen um 5 Uhr aufstehen. のようなイメージで発音します。(文字が大きい所が強い)

よく使われる分離動詞

分離動詞はたくさんあるので,全部を挙げることはできませんが,よく使われる分離動詞を紹介しておきます(アルファベット順ですが,関連のある語は一緒に挙げています)。不規則動詞から作られた分離動詞はやはり不規則変化になることに注意して下さい。

ab|fahren 出発する (a→ä型の不規則変化)
 an|kommen 到着する
ab|holen 迎えに行く
an|fangen 始める/始まる(a→ä型の不規則変化)
an|rufen 4電話をかける
auf|machen 開ける
 zu|machen 閉める
auf|stehen 起きる
auf|geben あきらめる(e→i型の不規則変化)
aus|geben 支出する(e→i型の不規則変化)
aus|gehen 外出する
ein|laden 招待する(a→ä型の不規則変化)
ein|steigen 乗車する
 um|steigen 乗り換える
 aus|steigen 下車する
fern|sehen TVを観る(e→ie型の不規則変化)
kennen|lernen 4と知り合う
mit|bringen 持って来る
mit|kommen 一緒に来る
mit|nehmen 持って行く(nehmenと同じ変化)
statt|finden 開催される
teil|nehmen 参加する(nehmenと同じ変化)
vor|haben 予定している(habenと同じ変化)
vor|schlagen 提案する(a→ä型の不規則変化)
wieder|sehen 再会する
zu|hören 聴く
zurück|kommen 戻って来る

分離動詞のQ&A

Q
分離動詞はなぜ分離するのですか? Ich stehe um 5 Uhr auf. としないで Ich aufstehe um 5 Uhr. とした方がわかりやすいと思います。分離させることにどんな利点があるのですか?
A

利点ですか…。残念ながら利点はありません。でも動詞に別の要素を付加する場合,英語でも understand のようにくっつくタイプと get up のように離れているタイプがありますよね。分離動詞は get up のようなタイプです。この付加された(ここでは赤字の)部分の位置が英語とドイツ語では異なります。英語は動詞のすぐ後,ドイツ語では文末です。これは英語とドイツ語の語順の型で,助動詞と本動詞,完了の助動詞と過去分詞などでも同様の語順になります。ですからドイツ語の感覚では Ich stehe um 5 Uhr auf. のように stehe と auf が離れているのは,Er muss heute nach Berlin fahren.(彼は今日ベルリンに行かねばならない)の助動詞 muss と本動詞 fahren や,Wir haben sehr viel Bier getrunken.(私たちはビールを大量に飲んだ)の完了の助動詞 haben と過去分詞 getrunken が離れているのと同じく普通のことなのです。むしろ分離動詞の不定形を aufstehen とくっつけて書くのがいつもと違うことなので,これらの動詞を「複合連記動詞」と呼ぶ人もいます。

Q
Steigt er in Kumamoto aus? という文の意味を調べようと辞書を引いたら steigen は「のぼる」,aus は「〜から」と載っていました。そうするとこの文の意味は「彼は熊本から上京してきたんですか?」でいいんですか?
A

全然違います(^^;) この文の動詞は aus|steigen という分離動詞で,意味は「下車する」です。したがってこの文は「彼は熊本で下車するのですか?」という意味です。分離動詞は文中で分離するので,文の中では Steigt er in Kumamoto aus? のように2つに別れて出てきますが,steigen と aus を別々に辞書で調べてもダメです。分離動詞は1つの動詞なので,aus|steigen で辞書を引いて下さい。

Q
aus とか vor などは分離動詞の前綴りだったり前置詞だったりするようですが,同じ形なので区別できません。どうやって見分けたらいいんでしょうか?
A

分離動詞の分離した前綴りは必ず文末に置かれます。だから aus や vor などが文末にあれば分離動詞の前綴りです。前置詞は「(ことば)」なので名詞・代名詞の前に置かれます。言い換えれば前置詞の後ろには必ず名詞か代名詞があります。したがって aus や vor などの後ろに名詞・代名詞があれば前置詞,何もない(=文末にある)場合は分離前綴りです。

Q
分離動詞の前につく aus や ab などの品詞は何なんですか?
A

元々は前置詞だったり(aus),副詞だったり(ab)しますが,aus|steigen や ab|fahren のような分離動詞では動詞の一部です。

Q
auf のようにどの前つづりにも前置詞としての用法があり,明確な意味があるものですか? それとも固定の意味はなく形式的なものもありますか?
A

前綴りが全部前置詞として使えるわけではありません。teil|nehmen の teil は Teil (部分)という名詞ですし,kennen|lernenのように動詞と動詞がくっついた分離動詞もあります。kennen は英語の know, lernenは英語の learn です。いずれにしても前綴りには何らかの意味があり,形式的なものはありません。

Q
分離動詞は不定形では分離しないので,主語が wir や彼らの sie のときも分離動詞は分離しないのですか?
A

いいえ,分離します。普通の動詞では主語が wir や彼らの sie のときの定形は不定形と同じ形になりますが,不定形になるわけではありません。形は不定形と同じでもあくまで「定形」(=人称変化形)です。また,分離動詞では,人称変化して2番目に置かれるのは後半の動詞本体だけなので,主語に関わらず主文の定形では常に分離します。(副文では分離しませんが,それは Lektion 16 で学びます。早く知りたかったら S.41 の[plus 1]を見て下さい。

主語がwirの例:Wir stehen um 6 Uhr auf. <auf|stehen

Q
分離動詞は結構文法的にめんどくさいですがこれは人為的につくられたものですか? それとも自然発生的なものでしょうか?
A

分離動詞は英語の get uptake off のような群動詞(句動詞)と同じもので,もちろん自然発生的なものです。英語では動詞と一番密接に結びつく要素は常に動詞の直後に置かれるので,get up, take off はまとまった形で使われますが,ドイツ語では例の枠構造で,動詞のパートナーが文末に置かれるので,steht … auf のようになるわけです。これは分離動詞に限ったことではなく,ins Kino gehen(映画に行く)や zu Mittag essen(昼食を取る)のような熟語表現でも同じで,Ich gehe morgen ins Kino.(私は明日映画に行く)とかWann essen Sie zu Mittag?(あなたはいつお昼を食べますか?)のように ins Kino, zu Mittag は分離動詞の前綴りと同じように文末に置かれます。分離動詞なのかそうでないかは不定形でくっつけて一語で書くかどうかという違いだけです。auf|stehen は分離動詞ですから,助動詞構文では分離せず,Ich muss morgen um 5 Uhr aufstehen. になりますが,ins Kino gehen は分離動詞ではないので,Ich möchte morgen ins Kino gehen. です。耳で聞いた場合はくっついているか離れているかは分からないので,音声言語としては auf|stehen も ins Kino gehen も普通の文では auf や ins Kino が文末に置かれ,助動詞構文ではaufstehen, ins Kino gehen になるという点では同じです。つまり分離動詞というのは正書法(言語をどう書くかという規則)の問題なので,ins Kino gehen を inskino|gehen と書けば分離動詞になるわけです。(ただし ins Kino gehen はまだ分離動詞にはなっていないので,助動詞構文でも離して書いて下さい。)

Q
分離動詞の作り方は簡単そうですが近年にも新しい分離動詞は生み出され続けているのでしょうか?
A

1990年頃までは分離動詞が増える傾向にあり,rad|fahren(自転車に乗る)に合わせて Auto fahren(車を運転する)もそのうち auto|fahren という分離動詞になるだろうと言われていましたが,1998年8月に導入されたドイツ語の新正書法で分離動詞が減りました。auto|fahren という新しい分離動詞ができるどころか,rad|fahren という分離動詞がなくなり,Rad fahren と2語で書かれることになりました。この流れだと今後新しい分離動詞が作られることはないと思われます。

Q
「非分離動詞」というのがあるそうですが,どんなものですか?
A

英語の understand のように基本動詞に付加された要素が常に動詞にくっついていて分離しない動詞のことで,verstehen(理解する),besuchen(訪問する)などが非分離動詞です。これらの動詞は付加された要素(=接頭辞)にはアクセントがないのが特徴です。言い換えれば,be-, emp-, ent-, er-, ge-, ver-, zer- というアクセントを持たない接頭辞がついた動詞が非分離動詞で,これらの接頭辞を「非分離前綴り」と呼びます。ただし,分離しないので,使い方は haben とか spielen のような普通の動詞と同じですから,わざわざ「非分離動詞」という名前を付ける必要もない(英語の understand 等にも特別な名前はありません)ので,この授業では「非分離動詞」という名称は使いません。覚えなければならない用語は少しでも少ない方がいいので。