再帰代名詞
再帰代名詞は主語と同じものを指す代名詞です。英語の himself や herself にあたるもので「自分に/自分を」という意味になります。英語では myself 〜 themselves まで,全ての人称に再帰代名詞としての …self/…selves という形がありますが,ドイツ語の再帰代名詞は2人称敬称の Sie と3人称のみが sich という特別な形になり,1人称と2人称親称は人称代名詞をそのまま使います。
Peter lobt ihn. (ペーターは彼をほめる) という文では,主語の Peter と目的語の ihn は別の人です。「ペーターは自分をほめる」と言いたい場合は ihn ではなく,別の代名詞が必要になります。そこで主語と同じものを指す再帰代名詞の sich を使って Peter lobt sich. (彼は自分をほめる)と言います。
このように3人称では,主語と同一人物であることを示すには,特別な再帰形が必要ですが,1人称・2人称では,主語の ich/du とは別人の mich/dich はありません。 ichとmich, duとdich は常に同一人物なので,特別な再帰形がなくても困りません。だからドイツ語では特別な再帰形があるのは (必ず区別が必要になる) 3人称だけで,1・2人称ではふつうの人称代名詞をそのまま再帰代名詞としても使うのです。
それではドイツ語の再帰代名詞を一覧表の形で確認しておきましょう。教科書S.20の人称代名詞の格変化表と比べてみて下さい。網かけ部分以外は同じですね。

▶ 再帰代名詞は主語と同じものを指す代名詞なので,主語にはなれません。したがって再帰代名詞には1格の形はありません。この表の1格は,再帰代名詞ではなく,参考のために示した普通の人称代名詞です。
★1人称,2人称親称には特別な再帰形はなく,人称代名詞をそのまま使います。
★3人称と2人称敬称の Sie にだけ特別な再帰形 sich があります(性・数・格に関係なく全て sich )。
★2人称敬称は,2人称なので本来なら特別な再帰形は必要ありませんが,2人称敬称 Sie は全て3人称複数の sie からの転用なので,再帰代名詞も3人称複数と同じ sich を使います。
★2人称敬称 Sie の再帰代名詞は,他の再帰代名詞と同様に小文字で書きます。2人称敬称 Sie の変化形 (3格の Ihnen とか所有冠詞の Ihr とか) は語頭を大文字にしますが,sich だけは小文字です。
フランス語,イタリア語などでも特別な再帰形は3人称だけで,1・2人称ではふつうの人称代名詞をそのまま再帰代名詞として使います。1・2人称に特別な再帰形があるのは英語だけです。
再帰代名詞はいつ使う?
再帰代名詞の使い方は大きく分けて2つあります。
1) 普通の動詞+再帰代名詞
普通の動詞の目的語が「自分に/自分を」になる場合は目的語として再帰代名詞を使います。再帰代名詞は「自分自身」という意味になります。
2) 再帰動詞+再帰代名詞
再帰動詞は,常に再帰代名詞と共に使われる動詞です。一種の熟語と考えて下さい。再帰動詞と一緒に使われる再帰代名詞は,動詞とほとんど一体化して一つの意味を表わすので,「自分自身」という意味はありません。
以下では,それぞれの場合について詳しく見ていきます。
普通の動詞+再帰代名詞
「自分に…する」とか「自分を…する」と言う場合は,目的語を再帰代名詞にします。これは英語の再帰代名詞の使い方と同じです。普通の名詞を目的語にした a文と再帰代名詞を使った b文を比べて下さい。
《3格》自分に
a) Ich kaufe meiner Familie Souvenirs.
私は家族にお土産を買う。
b) Ich kaufe mir Souvenirs.
私は自分用にお土産を買う。
b文の mir は ich の3格です。1人称なので人称代名詞と同じ形をしていますが,ここでは再帰代名詞です。ちなみにこの文の主語を3人称の er に変えると Er kauft sich Souvenirs. になります。
《4格》自分を
a) Sie lobt das Kind.
彼女はその子をほめる。
b) Sie lobt sich.
彼女は自分をほめる。
再帰動詞+再帰代名詞
再帰代名詞と熟語的に結びついて,1つのまとまった意味を表わす動詞が「再帰動詞」です。辞書では [再] と表記されています。英語にはほとんどありませんが,ドイツ語やフランス語にはたくさんあります。熟語としてそのまま覚えて下さい。
英語の辞書では再帰代名詞を oneself で代表させるように,ドイツ語では sich で代表させます。英語の oneself が主語が you だったらyourself,he だったら himself になるように,ドイツ語の sich も主語に合わせて変化します。
Bitte setzen Sie sich!
どうぞお掛け下さい。
<sich setzen 座る
Erkältest du dich oft?
君はよく風邪をひくの?
<sich erkälten 風邪をひく
★ 再帰動詞の多くは特定の前置詞と一緒に使われます。
Er bereitet sich auf das Seminar vor.
彼はそのゼミの準備をする。
<sich auf 4格 vor|bereiten…の準備をする
Interessieren Sie sich für Yoga?
あなたはヨガに興味ありますか?
<sich für 4格 interessieren …に興味がある
Ich freue mich über die Nachricht.
私はその知らせを喜んでいる。
<sich über 4格 freuen …を喜ぶ
Sie freuen sich auf die Ferien.
彼らは休暇を楽しみにしている。
<sich auf 4格 freuen …を楽しみにする
▶ 再帰動詞と一緒に使う前置詞はふつうは1つだけ (sich interessieren ならいつも für ) ですが,sich freuen だけは über または auf と結びつき,どちらの前置詞を使うかによって意味が変わるので気をつけて下さい。
再帰動詞の意味を分解すると…
ほとんどの再帰動詞には他動詞としての用法もあります。例えば interessieren には「…に興味を持たせる」という他動詞としての使い方があります。
Dieses Thema interessiert mich.
このテーマは私に興味を持たせる。
これをichを主語にして再帰動詞で表現すると
Ich interessiere mich für dieses Thema.
私はこのテーマに興味がある。
になります。逐語訳的に分解すると「私は (ich) このテーマに対して (für dieses Thema) 自分自身に (mich) 興味を持たせる (interessiere)」ということになり,再帰代名詞はやっぱり「自分自身」という意味になっているのですが,ドイツ語の母語話者がこの表現を使うときに,こんな風に分析的に考えているわけではありません。だから皆さんも熟語だと思って sich für … interessieren で「…に興味がある」と覚えて下さい。英語の interest という動詞も「…に興味を持たせる」という他動詞で,be interested in はその受身形 (「…に興味を持たせられる」) ですが,普通はそんなことは考えずに be interested in … で「…に興味がある」と覚えるのと同じです。
▶ 他動詞(興味を持たせる)を自動詞(興味がある)にするために,ドイツ語は再帰動詞を使い,英語は受動態にするのです。
純粋な再帰動詞
再帰動詞としての用法しかない,純粋な再帰動詞もあります。
Er schämt sich für seine Lüge.
彼は自分の嘘を恥じる。
<sich schämen 恥じる
Sie beeilt sich nie.
彼女は決して急がない。
<sich beeilen 急ぐ
▶ schämen や beeilen は常に sich schämen, sich beeilen という再帰動詞として使います。「恥ずかしく思わせる」や「急がせる」という他動詞はありません。
再帰動詞の疑問文についての注意点
再帰動詞も普通の動詞と同じように主語と動詞を倒置して疑問文を作りますが,特定の前置詞と一緒に使われる再帰動詞は,「君は何に興味があるの?」とか「彼は何を喜んでいるの?」のように「何」を尋ねる場合,疑問詞 was (英 what )ではなく「wo+前置詞」(前置詞が母音で始まるときは「wor+前置詞」)という形を使います。 「wo+前置詞」の wo は「どこに」という疑問詞ではなく,「何」という疑問詞 was が変化した形です。
Wofür interessierst du dich?
君は何に興味があるの?
<sich für [4格] interessieren
Worüber freut er sich?
彼は何を喜んでるの?
<sich über [4格] freuen
▶ wasの代わりに「wo+前置詞」を使うのは,再帰動詞だけでなく,普通の動詞でも同じです。例えば Er fährt mit dem Bus nach Kumamoto. (彼はバスで熊本へ行く) という文の mit dem Bus (バスで)の部分を「何を使って(=どんな交通手段で)」と尋ねる場合は,Womit fährt er nach Kumamoto? (彼はどうやって熊本へ行くの?) になります。→教科書S. 27の plus 1の 2)も参照
再帰代名詞が3格になる再帰動詞
ほとんどの再帰動詞は4格の再帰代名詞と共に使われますが,再帰代名詞が3格になる再帰動詞も少しだけあります。辞書では sich が3格であることを示すため,sich3 と書かれています。 主語が3人称の場合の再帰代名詞は3格も4格も sich なので格を意識する必要はありませんが,主語が1人称・2人称の場合は注意して下さい。
Ich sehe mir das Spiel im Fernsehen an.
私はその試合をテレビで見ます。
<sich3 [4格] an|sehen …をじっくり見る
Wie stellst du dir deine Zukunft vor?
君は自分の将来をどんな風に考えてるの?
<sich3 [4格] vor|stellen …を想像する
▶ 再帰代名詞が3格になる場合は,必ず4格の目的語があります。