再帰代名詞と再帰表現
「自分自身」という意味を持つ代名詞を「再帰代名詞」といいます。英語のmyselfやhimselfに当たるものですね。英語では全ての人称に再帰代名詞としての特別な形がありますが,ドイツ語の再帰代名詞は3人称と2人称敬称の Sie のみが sich という特別な形になり,他は人称代名詞をそのまま使います。まずは3人称の場合で英語とドイツ語を比べてみましょう。
1a) Thomas hates him.
トーマスは彼が嫌いだ。
1b) Thomas hates himself.
トーマスは自分が嫌いだ。
1a)の文ではhimはトーマスとは別の男性です。「トーマスは自分自身が嫌いだ」と言う場合は「自分自身」という再帰代名詞himselfを使う必要があります。
ドイツ語でも同様に
1c) Thomas hasst ihn.
トーマスは彼が嫌いだ。
1d) Thomas hasst sich.
トーマスは自分が嫌いだ。
となり,「自分自身」を示すには再帰代名詞としての特別な形sichを使います。
ところが,主語が1人称や2人称の場合は,
2a) I hate me.
私は私が嫌いだ。
2b) I hate myself.
私は自分が嫌いだ。
となって,2aと2bは同じ意味になります。これは3人称では主語のheやsheとは別の男性や女性が目的語になる可能性(主語のhe≠目的語のhim)があるため,主語と同一人物であることを示すには,特別な再帰形が必要であるのに対して,1人称では,主語のIとは別人のmeはありません。常にI=me なので,myselfのような特別な再帰形がなくても全然困りません。2人称の場合も同じことです。というわけで,ドイツ語では特別な再帰形があるのは(必ず区別が必要になる)3人称だけで,1・2人称ではふつうの人称代名詞をそのまま再帰代名詞として使うのです。
2c) Ich hasse mich.
私は私が(=自分が)嫌いだ。
2d) 特別な再帰形はありません
フランス語,イタリア語などでも特別な再帰形は3人称だけで,1・2人称ではふつうの人称代名詞をそのまま再帰代名詞として使います。1・2人称に特別な再帰形があるのは英語だけです。
まずは教科書S.32の再帰代名詞の表と教科書S.20の人称代名詞の格変化表と比べてみて下さい。網かけ部分以外は同じですね。それでは教科書S.32の表を見ながら以下の説明を読んで下さい。
★1人称,2人称親称には特別な再帰形はなく,人称代名詞をそのまま使います。
★3人称と2人称敬称のSieにだけ特別な再帰形sichがあります(性・数・格に関係なく全てsich)。
★2人称敬称は,2人称なので本来なら特別な再帰形は必要ないのですが,2人称敬称Sieの形は全て3人称複数sieからの転用なので,再帰代名詞も3人称複数と同じsichを使います。
★2人称敬称Sieの再帰代名詞は,他の再帰代名詞と同様に小文字で書きます。2人称敬称Sieの変化形(3格のIhnenとか所有冠詞のIhrとか)は語頭を大文字にしますが,sichだけは小文字です。
普通の動詞+再帰代名詞
「自分自身を…する」とか「自分自身に…する」と言いたい場合は,目的語を再帰代名詞にします。これは英語の再帰代名詞の使い方と同じですね。普通の名詞を目的語にしたa文と再帰代名詞を使った b文を比べて下さい。
《4格》自分自身を
a) Sie lobt das Kind.
彼女はその子をほめる。
b) Sie lobt sich.
彼女は自分自身をほめる。
《3格》自分自身に
a) Ich kaufe meinem Bruder eine CD.
私は弟にCDを買う。
b) Ich kaufe mir eine CD.
私は自分用にCDを買う。
b文のmirはichの3格です。1人称なので人称代名詞と同じ形をしていますが,ここでは再帰代名詞です。ちなみにこの文の主語を3人称のerに変えると
Er kauft sich eine CD.
(彼は自分用にCDを買う)になります。
再帰動詞
再帰代名詞と熟語的に結びついて,まとまった意味を表わす動詞を「再帰動詞」といいます。英語にはほとんどありませんが,ドイツ語やフランス語にはたくさんあります。熟語としてそのまま覚えて下さい。 再帰動詞は辞書では【再】または【再帰】と書かれています。英語の辞書では再帰代名詞を oneselfで代表させるように,ドイツ語ではsich で代表させます。英語のoneselfが主語がIだったらmyself,heだったら himselfと変化するように,ドイツ語のsichも主語に合わせて変化します。また,再帰動詞の多くは特定の前置詞と一緒に使われます。
教科書S.32に例文が載っているsich für+4格 interessieren(…に興味がある),sich über+4格 freuen(…を喜ぶ),sich auf+4格 freuen(…を楽しみにする)は特に良く使う再帰動詞なので,ぜひ覚えて下さい。通常は再帰動詞と一緒に使う前置詞は1つだけ(sich interessierenならいつも für)ですが,sich freuenだけはüberまたはaufと結びつき,どちらの前置詞を使うかによって意味が変わるので気をつけて下さい。
再帰動詞の意味を分解すると…
ほとんどの再帰動詞には他動詞としての用法もあります。例えばinteressierenには「…に興味を持たせる」という他動詞としての使い方があります。
Dieses Thema interessiert mich.
このテーマは私に興味を持たせる。
これをichを主語にして再帰動詞で表現すると
Ich interessiere mich für dieses Thema.
私はこのテーマに興味がある。
になります。逐語訳的に分解すると「私は(ich)このテーマに対して (für dieses Thema)自分自身に(mich)興味を持たせる(interessiere)」ということになり,再帰代名詞はやっぱり「自分自身」という意味になっているのですが,ドイツ語のネイティブスピーカーがこの表現を使うときにこんな風に分析的に考えているわけではありません。ですから皆さんも熟語だと思ってsich für … interessieren で「…に興味がある」と覚えて下さい。英語のinterestという動詞も「…に興味を持たせる」という他動詞で,be interested in はその受身形(「…に興味を持たせられる」)ですが,普通はそんなことは考えずに be interested in …で「…に興味がある」と覚えるのと同じです。
純粋な再帰動詞
再帰動詞としての用法しかない,純粋な再帰動詞もあります。
Thomas schämt sich für seine Lüge.
トーマスは自分の嘘を恥じる。
Schäm dich! 恥を知れ!
★schämenは常にsich schämen(恥じる)という再帰動詞として使います。「恥ずかしく思わせる」という他動詞はありません。
再帰動詞の疑問文
再帰動詞も普通の動詞と同じように主語と動詞を倒置して疑問文を作りますが,特定の前置詞と一緒に使われる再帰動詞の場合は,その前置詞は絶対省略できないので,疑問詞を使う疑問文では「wo+前置詞」という形になります。(→教科書S.33とS.27)
再帰代名詞が3格になる再帰動詞
ほとんどの再帰動詞は4格の再帰代名詞と共に使われますが,再帰代名詞が3格になる再帰動詞も少しだけあります。辞書ではsichが3格であることを示すため,sich3と書かれています。 主語が3人称の場合の再帰代名詞は3格も4格もsichなので格を意識する必要はありませんが,主語が1人称・2人称の場合は注意して下さい。
sich3 4格 an|sehen …をじっくり見る,見物する
Ich sehe mir das Spiel im Fernsehen an.
私はその試合をテレビで見ます。