動詞のパートナーは文末に置かれる(枠構造)
英語では動詞と密接に結びつく要素は動詞のすぐ後に置かれますが,ドイツ語では文末に置かれます。第2位に置かれた動詞の定形と文末に置かれた要素が枠を作り,文頭の文成分以外はすべてこの枠の中に入るので,この形を「枠構造」と呼びます。
動詞 (助動詞)とそのパートナーの位置を英語とドイツ語で比較してみましょう。
① 動詞と目的語:
英 She plays tennis with her sister today.
独 Sie spielt heute mit ihrer Schwester Tennis.
彼女は今日妹とテニスをする。
② 話法の助動詞と本動詞の不定形:
英 I must go to Berlin tomorrow.
独 Ich muss morgen nach Berlin fahren.
私は明日ベルリンに行かねばならない。
③分離動詞の動詞本体と分離前綴り(英語は句動詞):
英 He gets up at 6 o’clock every morning.
独 Er steht jeden Morgen um 6 Uhr auf.
彼は毎朝6時に起きる。
英語では today, tomorrow, every morning のような,どちらかと言うとあまり重要でない語が文末に来ますが,ドイツ語では直接目的語,本動詞,分離前綴りという重要な語が文末に置かれていることを確認して下さい。「文末」はドイツ語ではとても大事な場所なのです。
不定句と語順
「不定句」とは,動詞の不定形に目的語などがついたものです。2つ以上の語がまとまった意味を表わすものを文法用語では「句」と呼び,名詞を中心にした「名詞句」,前置詞を中心にした「前置詞句」などがあります。動詞の不定形を中心にした「句」が「不定句」です。「句」には「文」と違って主語はありません(主語と動詞を含むものが「文」ですね)。
例えば spielen(英 play)という動詞の不定形に Tennisという目的語をつけた Tennis spielen (テニスをする) が不定句です。もっとたくさんつけることもできます。Tennisの他にheute (今日) という副詞やmit Monika (モニカと一緒に) という前置詞句をつけると heute mit Monika Tennis spielen (今日モニカとテニスをする) という不定句になります。
さて,今作った不定句の語順に注目して下さい。
heute mit Monika Tennis spielen
今日 モニカと テニスを する
日本語と全く同じ順番に並んでいますね。実はドイツ語の不定句は動詞の不定形が最後に置かれ,その他の語句の語順も日本語と全く同じになるのです。
「不定句」は文を作る基礎となる句です。文には主語が必要ですが,heute mit Monika Tennis spielen (今日モニカとテニスをする) という不定句には主語がないので,まだ文ではありません。これに「誰が」にあたる主語を加えると文になります。主語が決まれば動詞はそれに合わせて人称変化しますね。また,「動詞は2番目」ですから,人称変化させた動詞を2番目に移動させると完璧なドイツ語の文が完成します。それでは「彼」を主語にして,この不定句から文を作ってみましょう。
[不定句]heute mit Monika Tennis spielen
今日 モニカと テニスを する
[文]Er spielt heute mit Monika Tennis.
彼は今日モニカとテニスをする。
ドイツ語の語順は動詞が2番目に来ることを除けば日本語と全く同じです。この例文では,動詞以外の語句は,日本語もドイツ語も「彼は er」「今日 heute」「モニカと mit Monika」「テニスを Tennis」の順になっていることを確認して下さい。この文は英語では She plays tennis with Monika today. ですから,英語では主語と動詞以外の語句は「tennis」「with Monika」「today」という順番,すなわち日本語・ドイツ語とはちょうど逆順になります。
なぜ日本語とドイツ語の語順が同じになるのか?
日本語とドイツ語は全く系統が違う言語なのになぜ語順が同じになるのでしょうか? 偶然の一致? いいえ,きちんとした理由があります。ポイントは動詞の位置です。日本語の動詞は文末ですね。ドイツ語も文になる前の不定句の段階では日本語と同じ文末です。不定句はドイツ語の深層構造と言えるもので,最終的な文(表層構造)では動詞は2番目ですが,ドイツ語のネイティブスピーカーの頭の中にある深層構造では,動詞はいつも文末(つまり日本語と同じ位置)にあるのです。文の中心は動詞ですから,その他の語は動詞との結びつきの強さによって位置が決まります。すなわち日本語でもドイツ語でも英語でも,動詞と関係の深い語ほど動詞の近くに置かれるのです。
さきほどの例文を不定句の形にして日本語,ドイツ語,英語の語順を比べてみましょう。赤字が動詞です。
日 今日 モニカと テニスを する
独 heute mit Monika Tennis spielen
英 play tennis with Monika today
どの言語でも動詞の一番近くには,動詞と最も関係の深い目的語である「テニス」が置かれ、時間関係の副詞「今日」が一番動詞から離れた位置にありますね。動詞にとって大事な要素ほど動詞の近くに置かれるので,これを「動詞引力の原理」と呼びます。
動詞のパートナーが文末に置かれる理由
これが文になると,ドイツ語では人称変化した動詞(=定形)は2番目に移動して,Tennisが文末に残ります。その結果,動詞とTennisは離ればなれになってしまいます。ドイツ語では「動詞と最も密接に結びつく要素は文末に置かれる」と説明されますが、実はわざわざ動詞と離して文末に置くのではなく,深層構造では動詞とそのパートナーは隣同士だったのです。
全文否定(=動詞の否定)のnichtが文末に置かれるのも同じ理由です。例えば「私を愛している」は,不定句では mich liebenですね。nichtは否定する語の直前に置かれるので,動詞liebenを否定するときはmich nicht liebenとします。この不定句からerを主語にした文を作ると、liebenの人称変化形liebtが2番目に移動して,Er liebt mich nicht.(彼は私を愛してない)になります。「動詞を否定するnichtは文末」というのは,動詞が移動することによって,元々は動詞の前にあったnichtが文末に取り残されているのです。
このような不定句と文の関係を,分離動詞と助動詞構文でも確認しておきましょう。
分離動詞の場合
分離動詞の場合も,普通の動詞と基本的には同じです。ただし,不定句から文を作るときに2番目の位置に移動するのは動詞本体だけで,前綴りは文末に残るので,動詞が2つに分離することになります。
[不定句] 毎朝 6時に 起きる
jeden Morgen um 6 Uhr auf|stehen
Er steht jeden Morgen um 6 Uhr auf.
彼は毎朝6時に起きる。
助動詞構文の場合
助動詞がある場合は,不定句から文を作るときに助動詞が2番目の位置に移動し,本動詞は文末に残ります。
[不定句] 明日 10時に 歯医者に 行く ねばならない
morgen um 10 Uhr zum Zahnarzt gehen müssen
Er muss morgen um 10 Uhr zum Zahnarzt gehen.
彼は明日10時に歯医者に行かなければならない。
ドイツ語の深層構造は日本語と同じ語順
熟語や動詞句を示す場合,ドイツ語では日本語と同じく動詞を最後に置いた不定句の形にします(sich für … interessieren / …に興味がある)。英語は動詞から始めます(be interested in …)。つまりドイツ語と日本語は,動詞が最後にあるのが基本形なので,他の語の並べ方も同じになり、英語は動詞が最初なので,他の語の語順がドイツ語や日本語とは逆になるのです。ドイツ語は表層構造では動詞が2番目に置かれますが,文になる前の(ドイツ人の頭の中にある)深層構造では日本語と同じく動詞が最後にあります。語順が日本語と同じというのは日本人がドイツ語を学ぶ際の大きな利点なので,ぜひ覚えて活用して下さい。