補講 語順

ドイツ語の語順の基本を説明するために,この課では主文の平叙文の語順のみを扱います。疑問文の語順は教科書S.22,命令文の語順は教科書S.57,副文の語順は教科書S.40を参照して下さい。

人称変化した動詞は2番目に置かれる (定形第2位の原則)

主語に合わせて人称変化した動詞の形が「定形」(主語がまった)です。ドイツ語では動詞の定形は文頭から2番目に置かれます

英語は語順で文の構造を示す言語なので,[主語動詞目的語]という語順が基本です。動詞の前にある名詞が主語で,動詞の後にある名詞が目的語ですね。だから He  goes  to a concert today. という文の today を文頭に置いても[主語動詞+…]という順番は変わらず,Today  he  goes  to a concert. です.

それに対して,ドイツ語で大事なのは「動詞は2番目」という規則です。だから主語以外の語句を文頭に置いた場合でも,動詞は2番目の位置を動かず(2番目の位置は動詞の指定席!),主語は動詞の後ろ,つまり3番目に置かれます。次の3つの文では,それぞれ主語 ich,副詞 heute (今日),前置詞句 mit Petra (ペトラと一緒に) が文頭に置かれていますが,どの文でも 動詞 gehe 2番目にあることを確認して下さい。

 Ich gehe heute ins Konzert.
  僕は今日コンサートに行く。
 Heute gehe ich ins Konzert.
  今日僕はコンサートに行く。
 Mit Petra gehe ich ins Konzert.
  ペトラと一緒に僕はコンサートに行く。

2番目」というのは単語の数ではなく,文成分の数なので注意して下さい。3番目の例文 Mit Petra gehe ich ins Konzert. では、単語で数えると動詞 gehe は3番目ですが、Mit Petra(ペトラと一緒に)は,分割できない意味のカタマリ(1つの文成分)です。だからこれで1つと数えて下さい。日本語でも「ペトラと一緒に」は1つのカタマリなので,「ペトラ・僕は・と一緒に・コンサートに・行く」などと言うことはできません。

ja, nein や und(英and ), aber(英but )などの並列接続詞は文の語順に影響しません。0番の扱いと考えて下さい。

  Ja,  er  kommt  aus  Berlin. 
  0  1    2
  はい、彼はベルリン出身です。 

 Aber er   wohnt  in  Wien.
   0  1    2  
  でも彼はウィーンに住んでいます。 

文頭に何を置くかによって文のニュアンスが変わる

ドイツでは主語以外で始まる文がたくさんあります。文頭に何を置くか,どんな語で文を始めるか,によって文のニュアンスが変わります。

 Sie studiert in Wien Mathematik. 
  彼女はウィーンで数学を専攻している。
 
In Wien studiert sie Mathematik. 
  ウィーンで彼女は数学を専攻している。
 
Mathematik studiert sie in Wien. 
  数学を彼女はウィーンで専攻している。

最初の文は主語から始まる,一番普通の文です。2番目の文は in Wien が文頭にあるので,「ウィーンで」が強調され,この文のテーマになっています。ベルリンじゃなくて,福岡じゃなくて,ウィーンで,という意味です。3番目の文では目的語の Mathematik がテーマ化されているので,生物じゃなくて,物理じゃなくて,数学,ということですね。

つまり主語以外の語を文頭に置くと,文のニュアンスが変わるわけです。これは日本語でも同じです。和訳を見れば分かるように,日本語でも文頭に何を置くかによってニュアンスが変わります。

動詞のパートナーは文末に置かれる(枠構造)

英語では動詞と密接に結びつく要素(動詞にとって一番大切なパートナー)は動詞のすぐ後に置かれますが,ドイツ語では文末に置かれます。第2位に置かれた動詞の定形文末に置かれた要素を作り,文頭の文成分以外はすべてこの枠の中に入るので,この形を「枠構造」と呼びます。

動詞 (助動詞)そのパートナーの位置を英語とドイツ語で比較してみましょう。

① 動詞と目的語:
 英
 She plays tennis every day.
  Sie spielt jeden Tag Tennis.  
    彼は毎日テニスをする。

② 助動詞と本動詞:
 英
 I must go to Berlin today.
  Ich muss heute nach Berlin fahren.
    私は今日ベルリンに行かねばならない。

③完了の助動詞と過去分詞:
 英
 He has written an e-mail.
  Er hat eine E-Mail geschrieben.  
    彼はメールを書いた。

①は動詞目的語です。他動詞の play/spielen にとって一番大切なパートナーは直接目的語の tennis/Tennis です。英語ではそれが動詞の直後に置かれますが,ドイツ語では文末です。

②は助動詞本動詞です。助動詞にとって一番大切なパートナーは本動詞ですね。英語ではそれが助動詞の直後に置かれますが,ドイツ語では本動詞は文末です。

③は完了の助動詞過去分詞です。現在完了の文ですね。英語では過去分詞は完了の助動詞の直後に置かれますが,ドイツ語では文末です。

ドイツ語では直接目的語本動詞過去分詞という重要な語が文末に置かれていることを確認して下さい。「文末」はドイツ語ではとても大事な場所なのです。

不定句と語順

不定句とは,動詞の不定形(英語の原形にあたる動詞の基本形)に目的語などがついたものです。2つ以上の語がまとまった意味を表わすものを文法用語では「句」と呼び,名詞を中心にした「名詞句」,前置詞を中心にした「前置詞句」などがあります。動詞の不定形を中心にした「句」が「不定句」です。「句」には「文」と違って主語はありません(主語と動詞を含むものが「文」ですね)。ドイツ語の語順は,この不定句で考えるとよく分かります

例えば spielen(英 play)という動詞の不定形に Tennis という目的語をつけた Tennis spielen (テニスをする) 不定句です。もっとたくさんつけることもできます。Tennis の他に heute (今日) という副詞や mit Monika (モニカと一緒に) という前置詞句をつけると heute mit Monika Tennis spielen (今日モニカとテニスをする) という不定句になります。

さて,今作った不定句の語順に注目して下さい。

heute /mit Monika /Tennis /spielen   
 今日 /  モニカと  / テニスを / する

日本語と全く同じ順番に並んでいますね。実はドイツ語の不定句は動詞の不定形が最後に置かれ,その他の語句の順序も日本語と全く同じになるのです。

不定句は文を作る基礎となる句です。文を作るための部品材料と考えて下さい。文には主語が必要ですが,上記の不定句,heute mit Monika Tennis spielen (今日モニカとテニスをする) には主語がないので,まだ文ではありません。これに主語を加えると文になります。主語が決まれば動詞はそれに合わせて人称変化します。また,「動詞は2番目」なので,人称変化させた動詞を2番目に移動させると完全なドイツ語の文が完成します。それでは「彼」を主語にして,この不定句から文を作ってみましょう。主語が er なので,spielenspielt という形になって,2番目に置かれます。他の語句はそのまま後につなげればOKです。これで Er spielt heute mit Monika Tennis. という文ができあがります。

文になると,動詞は2番目ですが,不定句の段階では動詞は最後にあるので,日本語とまったく同じ語順になることを覚えておいて下さい。できあがった文でも動詞が2番目に来ることを除けば,ドイツ語の語順は日本語と全く同じです。この例文では,動詞以外の語句は,ドイツ語も日本語も「er 彼は」「heute 今日」「mit Monika モニカと」「Tennis テニスを」の順になっていることを確認して下さい。この文の英訳は He plays tennis with Monika today. なので,英語では主語と動詞以外の語句は「tennis」「with Monika」「today」の順,すなわちドイツ語・日本語とはちょうど逆順になります。

なぜ日本語とドイツ語の語順が同じになるのか?

日本語とドイツ語は全く系統が違う言語なのに,なぜ語順が同じになるのでしょうか? 偶然の一致? いいえ,きちんとした理由があります。ポイントは動詞の位置です。日本語の動詞は文末ですね。ドイツ語も文になる前の不定句の段階では日本語と同じ文末です。不定句はドイツ語の深層構造と言えるもので,最終的な文(表層構造)では動詞は2番目ですが,ドイツ語のネイティブスピーカーの頭の中にある深層構造では,動詞はいつも文末つまり日本語と同じ位置)にあるのです。どの言語でも文の中心は動詞なので,その他の語句は動詞との結びつきの強さによって位置が決まります。すなわち日本語でもドイツ語でも英語でも,動詞と関係の深い語,動詞と強く結びついている語ほど動詞の近くに置かれるのです。

さきほどの例文を不定句の形にして日本語,ドイツ語,英語の語順を比べてみましょう。赤字が動詞です。

 今日  モニカと  テニスを する
 heute mit Monika Tennis spielen
 play tennis with Monika today

どの言語でも動詞の一番近くにあるのは目的語の「テニス」です。それは目的語が動詞にとって一番大切だからです。動詞から一番離れた位置には,日本語でも,ドイツ語でも,英語でも時間関係の副詞「今日,heute, today」があります。時間関係の副詞は,なくても文が成立するので,動詞に取ってはあまり重要なパートナーではないからです。どの言語でも,動詞にとって大事な要素ほど動詞の近くに置かれるので,これを「動詞引力の原理」と呼びます。

動詞のパートナーが文末に置かれる理由

上記の不定句が文になると,人称変化した動詞(=定形)は2番目に移動して,Tennis が文末に残ります。その結果,動詞と Tennis は離ればなれになります。ドイツ語では「動詞と最も密接に結びつく要素は文末に置かれる」と説明されますが、実はわざわざ動詞と離して文末に置くのではなく,文になる前の不定句の段階では動詞とそのパートナーは隣同士だったのです。

動詞以外の語順は日本語と同じ

ドイツ語の語順は,動詞以外は日本語と同じになります。だからドイツ語の語順で迷ったら,日本語と同じ順番に語句を並べて,動詞だけ2番目に置けば完璧なドイツ語の文になります。語順が日本語と同じというのは日本話者がドイツ語を学ぶ際の大きな利点なので,ぜひ覚えて活用して下さい

まとめ
ドイツ語の語順で大切なのは
 ①動詞は2番目
 ②動詞のパートナーは文末(枠構造)
 ③動詞以外の語順は日本語と同じ

日本語と同じ順番に語句を並べて,動詞を2番目に置けばOK!

語順のQ&A

Q
Er spielt heute Tennis.(彼は今日テニスをする)という文で,spielt と Tennis の間にどんな長い修飾語が入っても Tennis は文末に置かれるのですか?
A

そうです。例えば「彼は今日5時にモニカと公園でテニスをする。」は Er spielt heute um 5 Uhr mit Monika im Park Tennis. になります。

Q
「定形第2位」って何ですか?
A

ドイツ語では動詞の定形(=人称変化形)をいつも文の先頭から2番目に置きます。1番目には主語が置かれることが多いですが,それ以外のものが来る場合もあります。その場合でも2番目は主語ではなく,いつも動詞の定形です。2番目は動詞の指定席というわけですね。このことを「定形第2位」または「定形第2位の原則」と呼びます。(ただしja/neinで答える疑問文では動詞の定形は文頭に置かれます。)

Q
ドイツ語では「動詞は2番目!」と習いましたが,それでは Jetzt wohnt Peter in Hamburg. という文を Jetzt wohnt in Hamburg Peter. としてもいいですか?
A

ダメです。主語以外のものを文頭に置いた場合,主語は動詞の直後に置く必要があります。

Q
「定形後置」って何ですか?
A

副文(→教科書S.40)では動詞の定形(=人称変化形)が文末に置かれることを「定形後置」と呼びます。

Q
Ich wohne jetzt in Fukuoka. という文で in Fukuoka を先頭に出すと,In Fukuoka wohne ich jetzt. になるんですよね。ich jetzt の部分は順番に前につめさせるだけでいいのですか? 2番目に来る動詞の後は語順の決まり(優先順位)はあるのですか?
A

1番目に主語以外のものがある場合,動詞の後には主語が来ます。
     主語動詞+…
主語以外のもの動詞主語+…
        2番目
つまり動詞の前には何を置いてもいいのですが,主語は必ず動詞の直前か直後に置く必要があります。それ以外の語順は基本的に日本語と同じになります。

Q
不定句って何ですか? 不定形とどこが違うのでしょうか?
A

不定形は(主語が定まっていない)動詞の基本形です。不定句というのは,この動詞の不定形に目的語や前置詞句などがついた「句」(=まとまった意味を持つ単語の集合)のことで,文を作るための「材料」とか「部品」のようなもの(したがって主語はない)です。これに主語を代入すれば文になります。英語の不定句はtake care of oneself のように動詞の原形を先頭に置きますが,ドイツ語の不定句では動詞の不定形は最後に置かれ,その他の語句の語順は日本語と同じになります。次の例で確認して下さい。

 毎日   徒歩で 大学へ 行く
jeden Tag zu Fuß zur Uni gehen

英語だと「every day」のような時間関係の副詞(句)は文末に置かれますが,ドイツ語では日本語と同じく前の方にあることに注意して下さい。

上記の不定句に主語 er を代入し,動詞を er に合わせて人称変化させて動詞の定位置である2番目に持ってくると Er geht jeden Tag zu Fuß zur Uni. (彼は毎日徒歩で大学へ行く。)という文が完成します。

Q
「Was trinken Sie zum Mittagessen?(昼食の時は何を飲みますか?)」という質問に「Tee trinke ich zum Mittagessen.」と答えたら,「Ich trinke Tee.」に直されました。どうしてでしょうか?
A

「Tee trinke ich zum Mittagessen.」は,文法的にはもちろん100%正しいドイツ語ですが,「紅茶は昼食の時に飲みます。」という意味なので,「Wann trinken Sie Tee?(紅茶はいつ飲みますか?)」という質問に対する答えとしてはOKですが,「Was trinken Sie zum Mittagessen?(昼食の時は何を飲みますか?)」に対する答えとしては変です。つまりここでは Tee が新しい情報で,それ以外は(質問文の中にある)古い情報なので,先に新しい情報を出して,後から古い情報を付け加える形になるのが変なのです。古い情報は質問者も知っているので,本来は言う必要がありません。だから一番自然な答えは「Tee.」と単語で答えることです。文で答える場合は「Ich trinke Tee.」がいいでしょう。「Ich trinke Tee zum Mittagessen.」という答えも Tee で文を始めるよりはいいですが,zum Mittagessen は古い情報なので省略する方が自然です(文で答える場合は主語と動詞は絶対必要なので ich trinke は古い情報ですが省略できません)。

Q
Ich wohne nicht in Berlin. を in Berlin を文頭に置いて書き換えるとき,nicht の位置は動詞のように決まっているのですか? nicht を文頭に置くということもあるのでしょうか?
A

Ich wohne nicht in Berlin. の in Berlin を文頭に置くと,In Berlin wohne ich nicht. になります。
主語は必ず1番目(動詞の直前)か3番目(動詞の直後)に置かれるので,nicht の位置はここしか残っていません。nicht を単独で文頭(=動詞の前)の置くことはできませんが,英語の not A but B に相当するnicht A sondern B の形でなら可能です。例えば,Nicht in Berlin, sondern in Hamburg wohne ich jetzt.(ベルリンじゃなくてハンブルクに私は今住んでいるんです。)この場合,nicht A sondern B 全体が1つの分成分なので,これが1番目で,その直後に動詞が置かれます。

Q
ドイツ語の語順では「いつ」と「誰と」という二つの要素では「いつ」を表す語のほうが先に来るのですか?
A

動詞の位置以外は日本語とドイツ語の語順は同じになります。ですから「いつ」と「誰と」は,日本語と同じく基本的に「いつ」の方が先に来ますが,日本語で「誰と」を「いつ」よりも先に言う状況があって,それをドイツ語で表現する場合は「誰と」を先に言うことになります。繰り返しになりますが,動詞の位置以外は日本語と同じなので,日本語の順番で単語を並べて下さい。これは日本語話者がドイツ語を学ぶ際の大きなアドバンテージなので,ぜひ活用して下さい。

Q
ドイツ人の方々も,頭の中では動詞を一番後ろに置いているにもかかわらず,話すときにはわざわざ2番目にもってくるなんて周りくどい気がするのですが,理由とかってあるんでしょうか?
A

動詞・助動詞の定形が常に第2位に置かれることを「V2語順」と呼びます。V2語順は英語以外のゲルマン語派の言語(ドイツ語,オランダ語,スウェーデン語など)に広く見られる語順です。ただし,ドイツ語ではV2語順になるのは主文のみで,副文(英文法でいう「従属節」)では,不定句のままの語順になり,動詞は文末に置かれます(→教科書S.40)。また,ドイツの子供の言語習得過程では動詞を最後に置く発話が多く見られることからも,ドイツ語では動詞が最後に来るSOV語順が基本と考えられています。なぜ主文ではそれがV2語順になるのか,なぜ英語はゲルマン語派なのにV2語順にならないのか,はまだきちんと解明されていません。

Q
日本語で「私は今日トーマスとボブスレーを観戦します。」と,「私は今日ボブスレーをトーマスと観戦します。」というように,文頭は同じでも,中身の語順が少し違うような文がありますが,この2文をドイツ語にする場合,ドイツ語における中身の語順にも影響しますか?
A

日本語でもドイツ語でも新情報,未知の情報を最後に言います。つまり a)「私は今日トーマスとボブスレーを観戦します。」では「ボブスレー」が新情報で,b)「私は今日ボブスレーをトーマスと観戦します。」では「トーマスと」が新情報です。ドイツ語にする場合も日本語と同じ順番に並べます。つまり a)では「トーマスとボブスレーを」,b)では「ボブスレーをトーマスと」の順に並べて下さい。なお言語学では,文頭に置く語は「テーマ」,文末の新情報は「レーマ」と呼ばれます。