名詞の性
ドイツ語の名詞には「男性名詞」「中性名詞」「女性名詞」という3つのグループがあります。 Vater(父)が男性名詞で,Mutter(母)は女性名詞というのはよくわかりますよね。また,子供は男の子も女の子もいるので,Kind(子供)は中性名詞ですと言われても納得できるかもしれません。でもドイツ語では無生物や抽象概念を表わす名詞にも性の区別があります。例えばKrieg(戦争)は男性名詞,Glück(幸運)は中性名詞,Liebe(愛)は女性名詞です。「戦争」はいかにも男性的だし「愛」は女性的だと思うかもしれませんが,そういう理由で性別が決まっている訳ではありません。これらは単なる名詞のグループで,変化の仕方によってグループ分けされているので,「第一変化名詞」「第二変化名詞」「第三変化名詞」という名称でもいいのですが,伝統的に「男性名詞」「中性名詞」「女性名詞」という名前になっています。つまり「机」が男性名詞で「窓」が中性名詞,「ドア」が女性名詞というのには特に理由はありません。
英語以外のヨーロッパの言語には,どの言語にも名詞に性の区別があります。フランス語,イタリア語,スペイン語などには男性名詞と女性名詞,ロシア語,ポーランド語,ラテン語などにはドイツ語と同じく男性名詞,中性名詞,女性名詞があります。
名詞の性と冠詞
それでは名詞の性が違うと何が変わるのでしょうか? 名詞の性に合わせて定冠詞(英語のthe)や不定冠詞(英語のa/an)などの冠詞類の語尾が変わります。冠詞類は,いわば帽子のようなもので,ドイツ語の名詞は性の違いによって別の帽子をかぶると考えておくとわかりやすいでしょう。なお,男性名詞,中性名詞,女性名詞のような区別があるのは単数形だけで,複数形になると,全て「複数名詞」として一括して扱われ,冠詞類の変化も一種類だけになります。
3人称単数の人称代名詞 er, sie, es は,英語のhe, she, itに相当しますが,英語のhe, sheは「人」にしか使われず,「もの」は全てitで受けるのに対して,ドイツ語のer, sie, esは「人」だけでなく「もの」でも男性名詞はer,女性名詞はsie,中性名詞はesで受けます。したがって er=「彼」, sie=「彼女」とは限らないので注意しましょう。 例えばder Tisch(机)は男性名詞だから er で受けますが「彼」と訳すことはできませんね。
名詞の性の覚え方
人間の場合は実際の性と同じなので簡単です。Vater(父),Bruder(兄・弟),Sohn(息子), Onkel(おじ),Lehrer(男性教師)などは男性名詞で,Mutter(母),Schwester(姉・妹),Tochter(娘),Tante(おば),Pilotin(女性パイロット)などは女性名詞です。
ただし2つだけ例外があります。Mädchen(女の子)とFräulein(令嬢)は中性名詞で,das Mädchen, das Fräuleinになります。これは –chen, –leinという語尾がつくとすべて中性名詞になるためです。
人間以外の名詞の性は合理的な理由があって決まっている訳ではないので,基本的には1つずつ覚えるしかありません。これから新しい名詞が出てくる度に名詞の意味だけでなく性も一緒に覚えましょう。その際には「Tisch,机,男性名詞」と覚えるのではなく,「der Tisch,机」のように定冠詞をつけて,定冠詞+名詞で1語のように覚えると楽です。そうすればTischという名詞を自分で言ったり書いたりするときに自然にderという定冠詞が一緒に出てきます。「Tischは男性名詞」という覚え方だと「男性名詞」⇒「男性の定冠詞はder」という回り道になります。
性を覚えるためには(3つの性で形が全て異なる)定冠詞をつけて覚えて下さい。不定冠詞は男性と中性が共にein なので,男性と中性の区別ができません。
形から性がわかる名詞
名詞の語尾から性がわかる場合もあります。ただしすべてと書いてあるもの以外は例外もあるので注意して下さい。
★ 小さいもの,可愛らしいものを表わす –chen / –lein で終わる語は,すべて中性名詞。
das Tischchen (小さい机), das Mädchen (女の子), das Vöglein (小鳥), das Fräulein (令嬢)など
★ –er で終わる「⋯する人」「⋯するための道具」は,すべて男性名詞。
der Lehrer (教師), der Musiker (音楽家), der CD-Spieler (CDプレーヤー) など
Mutter (母), Schwester (姉・妹),Tochter (娘) は,–erで終わっていますが,もちろん女性名詞です! (これらは「⋯する人」「⋯するための道具」ではありません)
★ –in で終わる人を表わす名詞は,すべて女性名詞。
die Lehrerin (女性教師), die Studentin (女子学生), die Japanerin (日本人女性) など
★ –heit / –keit / –schaft で終わる抽象名詞はすべて女性名詞。
die Freiheit (自由), die Einsamkeit (孤独), die Freundschaft (友情) など
★ –e で終わる語は,ほとんどが女性名詞。
die Kirche (教会), die Tasche (カバン) , die Karte (カード) など
★ 外来語は中性名詞が多い。
das Hotel (ホテル), das Symbol (シンボル), das Restaurant (レストラン) など
★ 複合語は das Telefon + die Karte = die Telefonkarte のように最後の名詞の性別に従います。
名詞の複数形
英語の複数形はほとんどが単数形に –sをつけるだけですが,ドイツ語では –sで複数形を作るのは外来語に限られ,英語では例外扱いだった man→men,sheep→sheepのようなパターンが主流です。
ドイツ語の複数形には以下の5つのパターンがあります。
①無語尾型
複数形になっても何も語尾がつかないタイプです。LehrerやMädchenのように単数形と複数形が全く同じ形になるもの(これは英語のsheepと同じですね)と,Bruderのように複数形では語幹の母音が ウムラウトするものがあります。ウムラウトするタイプは英語の man→menに相当します。
der Lehrer → die Lehrer 先生
das Mädchen → die Mädchen 女の子
der Bruder → die Brüder 兄・弟
–chen / –leinで終わる中性名詞と–erで終わる男性名詞(「⋯する人」「⋯するための道具」)は, 必ずこのタイプです。 女性名詞でこのタイプになるのは,Mutter(母)→MütterとTochter(娘)→Töchterの2語だけです。
②E型
単数形に–eという語尾をつけるタイプです。Tagのように–eをつけるだけのものと,BaumやHand のように–eをつけた上で,さらに語幹の母音がウムラウトするものがあります。
der Tag → die Tage 日
der Baum → die Bäume 木
die Hand → die Hände 手
このタイプは男性名詞が大部分ですが,Handのような女性名詞も少しあります。
③ER型
単数形に–erという語尾をつけるタイプです。このタイプでは語幹にウムラウトできる母音(=a, u, o, au)があれば,必ずウムラウトします。
das Buch → die Bücher 本
das Land → die Länder 国
das Kind → die Kinder 子供
このタイプはほとんどが中性名詞です。男性名詞でこのタイプに入るのはMann(男)→Männer,Wald(森)→Wälder,Gott(神)→Götterなどごく僅かで,女性名詞でこのタイプはありません。
④EN型
単数形に–enという語尾をつけるタイプです。単数形が–eで終わっている場合は–nだけをつけます。このタイプはウムラウトしません。
die Blume → die Blumen 花
die Frau → die Frauen 女性
die Lehrerin → die Lehrerinnen 女性教師
ほとんどの女性名詞がこのタイプです。–eで終わる女性名詞と–inで終わる女性名詞は,必ずこのタイプになります。なお,Lehrerinのように–inで終わる女性名詞の複数形は–innenになり,nが1つ増えます。
⑤S型
英語のように単数形に–sをつけるタイプです。このタイプはウムラウトしません。
das Auto → die Autos 自動車
das Radio → die Radios ラジオ
der Kimono → die Kimonos 着物
このタイプになるのは外来語だけです。yで終わる語でも,英語のようにyをiに変えてesをつけるのではなく,常に–sのみをつけます。また,sの発音はいつも[ス]です。したがってHobby(趣味)の複数形は Hobbys [ホビース]です(英語は hobbies [ホビーズ])。