Lektion 4 格変化(1)

格とは何か

名詞や代名詞の文中での役割(=主語なのか,目的語なのか…)を示すのが「格」です。ドイツ語には主格直接目的格間接目的格所有格という4つの格があります。日本語では「は・の・に・を」などの助詞を名詞の後につけて格を示すのに対して,ドイツ語は名詞の前に置かれる冠詞の形を変えて格を示します。

日本のドイツ語教育界では,主格を1格直接目的格を4格間接目的格を3格所有格を2格と呼んでいます。独和辞典もこの表記になっているので,本サイトでも以降はこの表記を使います。

それでは,der Lehrer(「男の先生」です。もちろん男性名詞!)の格変化を順に見ていきましょう。 日本語では「先生」の後ろにつく助詞が「」と変わることで「先生」という名詞の文中での役割が示されているのに対して,ドイツ語では「Lehrer」の前にある定冠詞が「derdendemdes」と変わっていることを確認して下さい。

1格(主格)

1格は主語や補語として用いられ,日本語の助詞「…は/が」に対応します。

 Der Lehrer kommt aus Sapporo.  
  その先生札幌出身です。

4格(直接目的格)

4格は動詞の直接目的語として用いられ,日本語の助詞「…」に対応します。

 Ich suche den Lehrer.  
  私はその先生捜しています。

3格(間接目的格)

3格は動詞の間接目的語として用いられ,日本語の助詞「…」に対応します。

 Wir zeigen dem Lehrer das Foto.  
  私たちはその先生その写真を見せます。

2格(所有格)

2格は後ろから名詞を修飾し,日本語の助詞「…」に対応します。

 Wo ist das Zimmer des Lehrers?  
  その先生部屋はどこですか?

2格は名詞自体も少し変化します。男性・中性の2格には –s(または –es)がつきます。2格は,英語の of のように,後ろから前の名詞を修飾します。上記の文を英訳すると Where is the room of the teacher? になります。

定冠詞と不定冠詞の格変化

上で見たのは男性名詞の定冠詞の格変化ですが,中性名詞,女性名詞,複数形の場合は別の変化になります。それでは定冠詞と不定冠詞の格変化を一覧表で確認してみましょう。定冠詞は d の部分が共通(=語幹),不定冠詞は ein の部分が共通(=語幹)で,それぞれ水色の部分が語尾です。Kinder は Kind の複数形(子供たち)です。

ドイツ語では名詞の格は主に冠詞の変化で示されるので,名詞自体はほとんど変化しません男性・中性の2格に –s または –es がつくのと,複数の3格に –n がつくだけです。

冠詞の変化は der, das, die, des, dem, den の6種類しかありません。

1格と4格の形が異なるのは男性名詞だけで,中性名詞,女性名詞,複数形では1格と4格は常に同じ形です。この「男性名詞以外は1格と4格は常に同じ形になる」のがドイツ語の格変化の特徴で,この後で出てくるすべての格変化に当てはまります。ぜひ覚えておいて下さい。

不定冠詞は,英語の a/an と同じく「1つの」という意味を持つので,複数形はありませんが,それ以外は定冠詞の場合とほぼ同じです。定冠詞と異なるのは,次の2点だけです。

 ① 男性1格,中性1・4格の2か所(上の表のの所)には語尾がない。
 ② 女性1・4格の語尾は定冠詞が –ie で,不定冠詞は –e なので微妙に異なる。

特に①は大事です。しっかり頭に入れておいて下さい。「この2カ所では語尾が欠けている」ということが,後で出てくる形容詞の格変化にも影響してきます。

Eva の例
 1格(…は)Das Dorf heißt Rosenfeld.
   その村ローゼンフェルトという名です。
 4格(…を):Sie schreibt einen „Nickname“.
   彼女は「ニックネーム」書く。
 3格(…に):Der Mann schenkt der Frau eine Rose.
   その男性はその女性バラを贈る。 
 2格(…の):Der Mann hält die Hand der Frau.
   その男性はその女性手を取る。

どうして格変化があるの?

英語でも人称代名詞は主語か目的語かによって形が変わります。例えば「彼」なら主語なので he ですが,「彼」は目的語なので him ですね。he主格him目的格なので,英語も人称代名詞には格変化があるわけです。英語では人称代名詞にしかない格変化が,ドイツ語では名詞にもあると考えて下さい。もっとも名詞はほとんど変化せず,変化するのはもっぱら冠詞類です(ラテン語やロシア語のように冠詞のない言語では名詞自体が格変化します)。

格変化は面倒なものと思われがちですが,格変化にはメリットもあります。ドイツ語は文の中での名詞の役割を格変化によって明示できるので,語順が自由になります。日本語も「…は」「…を」のような助詞をつけて,その名詞が主語なのか,目的語なのかを示せるので語順が自由です。英語には格変化も助詞もないので,名詞の役割は語順で示すことになります。つまり動詞の前にある名詞が主語,動詞の後ろにある名詞が目的語になります。だから英語はドイツ語や日本語ほど語順が自由になりません日本語話者の私たちが日本語の語順で考えた文を外国語にする場合は,日本語と同じく語順が自由なドイツ語の方が楽です。

格を番号で呼ぶメリットとデメリット

まずはメリットですが,「直接目的格」よりも「4格」の方が短いし,単語の格を示す際にも番号をつければいいので便利です。また,ドイツ語の前置詞は何格の名詞と結びつくか決まっています(→Lektion 8)。たとえば英語の with に当たる mit という前置詞は必ず3格の名詞と一緒に使いますが,この3格は日本語の「に」に対応するわけではないし,「間接目的語」でもありません。つまりドイツ語の3格の一番基本的な用法は間接目的語ですが,それがすべてではなく,他の使い方もあるので,「間接目的格」と呼ぶよりは番号で「3格」と呼ぶ方がいいわけです。

次にデメリットですが,1, 2, 3, 4と番号をつけると,どうしてもこの順番に並べたくなりますが,この順に並べると,1格と4格が離れてしまうので,「ドイツ語では男性以外は1格と4格が同じ形」という特徴ががぼやけてしまいます。そこでこの授業の教科書と本サイトでは,あえて1格,4格,3格,2格という順にしています。この順番にすると,1格と4格が並ぶので,上記の「ドイツ語では男性以外は1格と4格が同じ形」が可視化できるだけでなく,4つの格が頻度順に並ぶことになります。1格は主語になる格で,基本的に全ての文に必要です。多くの動詞は4格の目的語(直接目的語)を取ります。3格(=間接目的語)を必要とするのは,geben(与える),schenken(プレゼントする),zeigen(見せる)等の動詞に限られるので,4格に比べて使われる回数はずっと少なくなります。2格は英語の of に当たる von という前置詞で言い換えられるので,さらに使用頻度が低くなります。だからまずは1格と4格を覚えて下さい。ドイツでも昔はラテン語の文法に準拠して,主格,属格,与格,対格 の順に格を並べていましたが,今ではどの教科書も Nominativ(主格=1格),Akkusativ(対格=4格), Dativ(与格=3格), Genitiv(属格=2格) の順番です。ところが日本では格を番号で呼んでいるので,ほぼすべての教科書がいまだに,1格,2格,3格,4格の順番になっています。だからこの授業の教科書は異端です。出版社の人には「これだと保守的な先生から嫌われるので売れませんよ。」と言われましたが,この方が良いという信念に基づいてこうしました。その結果は…..やっぱり売れませんでした(T_T)。

固有名詞の格変化
ドイツ語の格変化は名詞の前につく冠詞で示されるので,冠詞がつかない固有名詞は格変化しません。ロシア語やラテン語のような冠詞のない言語では名詞自体が格変化するので,固有名詞にも格変化があります。例えば「ブルータス,お前もか」で有名なBrutus
(「ブルータス」は英語読みで,ラテン語では「ブルートゥス」)ですが,Brutus主格で,「ブルータスよ」という呼びかけに使う呼格ではBruteとなります。ですから「ブルータス,お前もか」はラテン語では Et tu, Brute? です。

格変化のQ&A

Q
「格」がまだよくわかりません。
A

「格」は名詞が文の中でどんな働きをしているのか(主語なのか目的語なのか等)を示すもので,とても大事です。働きとしては日本語の助詞と同じです。簡単にまとめると,1格は日本語の「…」または「…」,4格は日本語の「…」,3格は日本語の「…」,2格は日本語の「…」に当たります。つまり「父」だったら1格で der Vater,「父」なら4格で den Vaterになります。

Q
日本語の「てにをは」がドイツ語の格に当たるのはわかりましたが,日本語の助詞には「…」や「…」もあります。例えば「車」や「家」は何格になるのですか?
A

ドイツ語の格は4つしかないので,「…」や「…」に対応する格はありません。「車」や「家」は前置詞を使って mit dem Auto,nach Hause になります。前置詞に続く名詞が何格になるかは前置詞ごとに決まっています。これについては Lektion 8 で学びます。

Q
男性名詞と中性名詞の2格は最後に s または es が付きますが,s が付く単語と es が付く単語を見分ける方法はありますか?
A

Kind のような1音節(=母音が1つだけ)の語には -es をつけ,Vater のような2音節以上(=母音が2つ以上)の語には -s をつけるのが原則ですが,どちらでも良いという語も多いです。

Q
格に番号をつける際に,主格,直接目的格,間接目的格,所有格の順に1,2,3,4と付ければいいのに,なぜ1,4,3,2と付けられたのでしょうか?
A

これはラテン語の格変化表の順番に番号を付けたものです。ラテン語には,主格,属格(=所有格),与格(=間接目的格),対格(=直接目的格),奪格,呼格の6つの格があり,最後の2つはドイツ語にはありませんが,最初の4つはドイツ語と共通なので,上から1格,2格,3格,4格と番号をつけたのです。この1格,2格…という呼び名は日本のドイツ語教育界だけで使われているので,ドイツの大学や語学学校でドイツ語を学ぶときには使えませんし,格を持つ他の言語(例えばロシア語)を日本で学ぶときにも使えません。日本のロシア語教育界ではラテン語の属格,ドイツ語の2格を「生格」と呼びます。