Lektion 7 疑問文と否定文

疑問文の作り方

疑問詞のない疑問文(=Ja, Nein で答える疑問文)

疑問詞のない疑問文は,[動詞主語+…?]という形になります。英語では do, does, did のような助動詞を使って疑問文を作る場合と,主語と動詞を倒置して疑問文を作る場合がありますが,ドイツ語では英語の do, does, did のような助動詞は使いません。どんな動詞,助動詞でも疑問文は主語と動詞(または助動詞)を倒置して作ります。作り方が1つだけなので簡単です。以下の例文では赤が動詞青が主語です。

 Wohnen Sie in München?  
  あなたはミュンヘンにお住まいですか?
 Hast du einen Kugelschreiber?  
  ボールペン持ってる?
 Ist sie Studentin?  
  彼女は学生ですか?

疑問詞のある疑問文

疑問詞のある疑問文は,英語と同様に疑問詞を文頭に置きます。したがって[疑問詞動詞主語+…?]という形になります。 以下の例文では緑が疑問詞赤が動詞青が主語です。

 Was studierst du?  
  君は何を専攻してるの?
 Wohin fährt er am Sonntag?  
   彼は日曜日にどこへ行くの?

主な疑問詞

ここでは主な疑問詞を例文と一緒にまとめておきます。ドイツ語の疑問詞はすべて w で始まります。(  )は対応する英語の疑問詞です。

was 何 (what )
 Was ist das?  
  これは何ですか?

wann いつ (when )
 Wann beginnt der Unterricht?  
  その授業はいつ始まりますか?

wer 誰 (who )
 Wer ist dein Englischlehrer?  
  君の英語の先生は誰ですか?

wo どこに (where )
 Wo wohnt Andrea?  
  アンドレアはどこに住んでいますか?

woher どこから (wherefrom )
 Woher kommt Thomas? 
  トーマスはどこ出身ですか?

wohin どこへ (where )
 Wohin gehst du?  
  君はどこへ行くの?

warum なぜ (why )
 Warum lernt er Latein?  
  なぜ彼はラテン語を勉強してるの?

wie どのように (how )
 Wie fahren Sie zur Uni?  
  あなたはどうやって大学へ行きますか?

wie alt 何歳 (how old ) 
 Wie alt ist Klaus?  
  クラウスは何歳ですか?

wie lange どのくらい長く (how long )
 Wie lange bleibt er in Japan?  
  彼はどのくらい日本に滞在するの?

wie viel どのくらい多く (how much )
 Wie viel Geld hast du jetzt?  
  今お金いくら持ってる?

wie viele どのくらい多く (how many )
 Wie viele CDs haben Sie?  
  あなたはCDを何枚持ってますか?

wer (who ) には格変化があります。
 1格 werが (who )
  Wer kommt zur Party?  
   誰がパーティーに来ますか?
 4格 wen (whom )
  Wen sucht Thomas?  
   トーマスは誰を捜しているのですか?
 3格 wem (to whom )
  Wem schenkt er das Buch?  
   彼は誰にその本をプレゼントするの?
 2格 wessen (whose )
  Wessen Tasche ist das?
   これは誰のバッグですか?

付加疑問文

付加疑問文は,文の最後につけて「…ですよね?」と軽く確認する際に使います。英語の付加疑問文は「isn’t it?」「didn’t he?」「will you?」のように主語・動詞・時制によって形が変わるので大変ですが,ドイツ語の付加疑問文は1種類だけなので簡単です。主語や動詞や時制に関係なく常に nicht wahr? という形になります。

 Heute ist Freitag, nicht wahr? 
   今日は金曜日ですよね?

否定文の作り方

不特定の名詞の否定には kein を使う

kein は英語の no に相当します。He has no money. とか I have no time.no です。英語の no no money, no time, no friends のような組み合わせ以外ではほとんど出てきませんが,ドイツ語では不特定の名詞の否定は必ず kein なので,kein は英語の no よりもずっと頻繁に使われます。「これは博物館ではない。」は,英語では This is not a museum. ですが,ドイツ語では Das ist kein Museum. になります。「不特定の名詞」とは,不定冠詞のついた名詞と冠詞がついてない (=無冠詞の) 名詞のことです。

[不定冠詞のついた名詞の否定]
 Das ist ein Heft.  これはノートです。
 → Das ist kein Heft.  これはノートではない。

[無冠詞の名詞の否定]
 Er hat Zeit.  彼は暇です。
 → Er hat keine Zeit.  彼は暇ではない。
 (直訳:彼は時間を持ってない)

kein は格変化する

kein は「否定冠詞」です。冠詞なので,次に来る名詞の性と格によって格変化しますkein の格変化は不定冠詞の格変化と全く同じで,不定冠詞 ein の変化形の語頭に k をつけるだけです。例えば einekeine,einenkeinenです。(不定冠詞と違って複数形もあるので,複数形は定冠詞類と同じ変化になります。)

 Das ist keine Uhr.
  これは時計ではない。(女性1格)
 Er hat keinen Hund.
  彼は犬を飼っていない。(男性4格)

特定の名詞の否定には nicht を使う

「特定の名詞」とは,定冠詞(類)や所有冠詞(英語の my, your, his, her などに当たるもの)がついた名詞のことです。これらは nicht で否定します。 nicht は英語の not ですが,英語の don’tdidn’t のような形はありません。常に単独で使います。

 Das ist nicht das Buch.  
  これはその本ではない。
 Das ist nicht meine Uhr.  
  これは私の時計ではない。

動詞,形容詞,副詞の否定も nicht

名詞以外を否定する場合は常に nicht を使います。nicht は否定する語(句)のすぐ前に置きます。

 Ich bin nicht krank.  私は病気ではない。
  < krank「病気の」(形容詞)を否定
 Sie spielt nicht gut Tennis.  
  彼女はテニスが得意ではない。
  < gut「上手に」(副詞)を否定
 Er kommt nicht aus Berlin.  
  彼はベルリン出身ではない。
  < aus Berlin「ベルリンから」(前置詞句)を否定

動詞を否定する場合は nicht を文末に置きます。
 次の2つの文を比べてみましょう。

 a) Er kommt heute nicht.
   彼は今日来ません。(全文否定
   < kommt「来る」(動詞)を否定

 b) Er kommt nicht heute.
   彼は今日来ません。(部分否定
   < heute「今日」(副詞)を否定

a文は nicht が文末にあるので,kommen(来る)という動詞が否定されて「彼は今日来ない」という全文否定です。それに対してb文では,nicht の直後にある heute(今日)が否定されるので「彼は今日は来ない」という部分否定になります。すなわちb文には「明日や明後日は来るかもしれない」という含みがありますが,a文には「彼は今日来ない」以外の情報はありません

nicht はどこに置く?

nicht の位置を考える時の原則は「nicht は否定する語の直前に置く」です。以下の説明では下線を引いた語(句)nicht で否定されています。

動詞だけを否定する全文否定は nicht を文末に置く

Eva liebt den Mann. (Eva はその男性を愛している)という文は2種類の否定が可能です。

 1)Eva liebt nicht den Mann.
 2)Eva liebt den Mann nicht.

1)は den Mann の前に nicht があるので,nicht は den Mann を否定しています。だから「Eva が愛しているのはその男性ではない」という部分否定です。つまり「Eva はその男性以外の人が好きだ」という意味ですね。それに対して2)の文は liebt(愛している)という動詞の否定(=全文否定)で,「誰か別の人が好き」という含意はありません

ところで「nicht は否定する語の直前に置く」はずなのに動詞を否定するときに nicht を文末に置く(=nicht の後には何もない)のは変ですよね? これは不定句で考えると分かります。

 1)の不定句: nicht den Mann lieben
 2)の不定句: den Mann nicht lieben

nichtは否定する語の直前に置く」ので,1)では den Mann が,2)では lieben という動詞が否定されているのが分かります。この不定句から文を作ると,動詞が人称変化して2番目に移動するので,2)のような動詞の否定ではnicht が文末に置かれる(というか文末に残る)ことになります。

「前置詞句+動詞」を否定する全文否定は nicht を前置詞句の前に置く

全文否定は「動詞を否定すること」なので,不定句で考えると,普通は上記のように nicht は動詞の直前に置かれますが,前置詞句等と動詞が密接に結びつき,「前置詞句+動詞」で1つのカタマリとしてまとまった意味を表わす場合は,nicht はこのカタマリの中に割り込めないので,カタマリ全体の直前に nicht を置きます

例えば Er wohnt in Tokio.(彼は東京に住んでいる)の全文否定は

3) Er wohnt nicht in Tokio. 
 ( 不定句:nicht in Tokio wohnen )

になります。in Tokio wohnen が上で説明した「カタマリ」なので,nicht はこのカタマリの直前に置きます。(   )で示した不定句で nichtin Tokio wohnen の直前にあることを確認して下さい。この不定句から文を作ると,Er wohnt nicht in Tokio. (彼は東京に住んでいません) になります。この文は全文否定ですが,nicht を文末に置いて Er wohnt in Tokio nicht. とは言えません。ここで否定しているのは in Tokio wohnen (東京に住んでいる) であって,wohnen(住んでいる)という動詞だけではないことに注意して下さい。「東京に」は否定しないで,「住んでいる」だけを否定することはできませんよね。

前置詞句には動詞と密接に結びつかないものもあります。動詞と密接に結びつく前置詞句を「補足語」,そうでない前置詞句を「添加語」と呼びます。ある前置詞句が補足語か添加語かを見分けるには,その前置詞句を削除しても文が成り立つかどうかで判断して下さい。例えば上記の Er wohnt in Tokio. という文の in Tokio を削除した Er wohnt. は非文(=文法的に正しくない文)なので,この in Tokio は補足語だと分かります。それに対して,Sie lernt nach der Schule Japanisch. (彼女は放課後に日本語を勉強する)という文の nach der Schule(学校の後で)という前置詞句は動詞と密接に結びついているわけではなく,削除しても Sie lernt Japanisch. という文が成立するので添加語です。

kein と nicht の使い分け

動詞,形容詞,副詞の否定は常に nicht を使います。名詞の否定は nicht または kein ですが,特定の名詞の否定は nicht不特定の名詞の否定は kein になります。特定の名詞とは定冠詞や所有冠詞付きの名詞や固有名詞不特定の名詞とは無冠詞または不定冠詞付きの名詞です。

1) Das ist ein Buch.
→Das ist kein Buch. これは本ではない

2) Das ist mein Buch.
→Das ist nicht mein Buch. これは私の本ではない

1) が不特定な名詞の否定,2) が特定の名詞の否定です。1) はそもそも本であることを否定しています。一見本に見えるけど,実は中身は白紙のノートとか,本の形をした箱とかいう場合ですね。それに対して 2) は本であることは否定されていません。本ではあるけど,「私の」(つまり特定の)本ではない,と言っているのです。

3) Er ist Inder.
→Er ist kein Inder. 彼はインド人ではない

4) Er ist der Inder.
→Er ist nicht der Inder. 彼はそのインド人ではない

3) ではそもそも「インド人であること」が否定されています。それに対して 4) はインド人ではあるけど,今問題になっている「その」インド人ではない,という意味です。

まとめると,ドイツ語の否定は基本的に nicht です。ただし,不特定な名詞を否定する場合だけ kein を使って下さい。

否定疑問文への答え方

keinnicht を含む否定の疑問文に肯定の答えをする場合は ja ではなく doch を使います。答えが否定文になる(=答えに keinnicht が出てくる)場合は nein です。

 Hast du keine Geschwister?
  兄弟姉妹はいないの?
  —Doch, ich habe einen Bruder.
   いや,弟がいるよ。
  —Nein, ich habe keine Geschwister.
   うん,いないよ。

 Essen Sie nicht gern Fisch?
  魚は嫌いですか?
  —Doch, ich esse gern Fisch.
   いいえ,好きですよ。
  —Nein, ich esse nicht gern Fisch.
   はい,嫌いです。

普通の疑問文ではなく,あえて否定疑問文を使う場合は,質問する人は「兄弟姉妹はいないだろう」とか「魚は嫌いなんだろう」と思って聞いているわけです。そうでなかったら普通に Hast du Geschwister? (兄弟姉妹はいるの?)とか Essen Sie gern Fisch? (魚は好きですか?)と聞きますよね。それに対して「そんなことないですよ (あなたの考えてるのとは違いますよ)」と相手の思い込みをひっくり返す答えになる場合は,jaよりも強いdochを使うと覚えて下さい。

疑問文と否定文のQ&A

Q
疑問文は英語のように文末を上げて発音するのですか?
A

そうです。動詞で始まる疑問文は必ず文末を上げて下さい。文末を上げることで,疑問文であることを示します。
 また,会話では「主語+動詞+…」という語順の平叙文でも文末を上げて発音すれば疑問文になります。例:”Du kommst aus Wien?” 主語・動詞のない単語だけの文や語句の場合も最後を上げれば疑問文になります。例えば “Eva?” “In Japan?”とかですね。
 疑問詞がある場合は(疑問詞があれば文末を上げなくても疑問文だと分かるので)基本的には下げますが,上げてもいいです。

Q
英語では “Yes, I do.” とか “No, he isn’t.” のような答え方があります。ドイツ語でも “Ja, ich bin.” のような答え方ができますか?
A

できません。前置詞句や目的語を必要とする動詞はそれらを省略できないからです。例えば “Wohnst du in Fukuoka?” という質問に短く答えるなら “Ja.” だけ言います。そうでなければ “Ja, ich wohne in Fukuoka.” のように完全な文で答える必要があります。Fukuokaを繰り返したくなければ新情報を付け加えて,Ja, seit April. (はい,4月から)とか,Ja, in Meinohama. (うん,姪浜に) のように答えましょう。フランス語やエスペラントでも英語の “Yes, I am.” のような短答形式はありません。

実は英語の “Yes, I do.” のような答え方(「ショートアンサー」と言います)は,1922年から1936年まで日本に滞在し,当時の文部省英語教育顧問,英語教授研究所の初代所長として日本の英語教育に多大な貢献をしたイギリス人のハロルド・E・パーマー(Harold Edward Palmer)という人が日本の英語教育に導入したものです。それ以来ずっと引き継がれていて,現在でも文科省の「学習指導要領」でショートアンサーを指導することが義務付けられているので,日本の中学・高校の英語の教科書には必ず出てきます。もちろんこのショートアンサーはパーマ―の発明ではなく,正しい英語ですが,実際にはあまり使われません。日本人は学校で叩き込まれているので “Yes, I do.” 等をよく使いますが,英語の小説や映画ではほとんど出てきません。その代わりに “Oh, yes!” とか “Sure!” とか “Absolutely not!” のように返答するのが普通です。英語の小説を読んだり,英語の映画を見るときに気をつけてみて下さい。オバマ元大統領の “Yes, we can!” が有名ですが,これは普段はあまり使わないフレーズだからこそ,選挙のスローガンとして効果があったのです。

Q
Wer studiert Mathematik? に対して英語みたいに,Eva does. と省略した答え方はドイツ語にはないのですか?
A

“Eva does.” の does は「代動詞」と呼ばれるものですが,ドイツ語には代動詞はありません。実際の会話では
 A: Wer studiert Mathematik?
 B: Eva.
が一番自然です。ただしこの授業の Fragen zum Text はドイツ語の文を作る練習なので,必ず主語と動詞を含む文の形で答えて下さい。一番自然なのは “Eva.”ですが,授業では “Eva studiert Mathematik.” と答えましょう。

Q
日本語では「どこ『に』行きますか?」と「どこ『へ』行きますか?」は,どちらでもいいと思うのですが,ドイツ語の “wo” と “wohin” は使い分ける必要がありますか?
A

wo(どこ)は「場所」を尋ねる疑問詞で,wohin(どこ)は「(移動の)方向」を尋ねる疑問詞なのですが,日本語の「」は「場所」にも「方向」にも使えるので「どこ行くの?」は「どこ行くの?」とも言えるため,訳語だけだと混乱するかもしれません。でも「どこ住んでるの?」は「どこ住んでるの?」とは言えません。つまり日本語でも「場所」と「方向」は区別されているのです。(「」がちょっと万能すぎるだけですね)

ドイツ語では「場所」と「方向」を明確に区別するので,wowohin を使い分ける必要があります。「場所」を尋ねる時は wo しか使えませんし,「方向」を尋ねる場合は wohin しか使えません。「場所」なら wo,「方向」なら wohin と考えて下さい。

「場所」か「方向」かは次の Lektion 8 の前置詞でも問題になる重要な概念なのできちんと区別しておきましょう。「方向」を表わす語は,ふつう移動を表わす動詞(gehenやfahrenなど)と一緒に使うので,移動を表わす動詞だったら wohin を使うと覚えておくのもいいでしょう。あるいは wo は gehen, fahren のような移動を表わす動詞とは一緒に使えないと覚えて下さい。

Q
woherは「ヴォヘア」と発音されていますが,母音字である o の後に h が付いていても,直後に母音字があれば,o を伸ばさず h も発音するのですか?
A

woher の発音は[ヴォーヘーア]です。woher は wo [ヴォー](どこに)という疑問詞に her [ヘーア](こちらへ)という副詞がついてできた合成語なので,元の語の発音通り[ヴォーヘーア]と発音します。ドイツ語には wohin (どこへ)という疑問詞もあり,こちらは wo+hin (あちらへ)の合成語で[ヴォーヒン]と発音します。

Q
nicht の位置がまだよく分かりません。一般的には文末に置くという理解でいいですか?
A

nicht を文末に置くのは動詞のみを否定する場合だけです。nicht の位置を考える時の原則は「nicht は否定する語の直前に置く」です。これをしっかり覚えて下さい。詳しい説明はこの課の「nicht はどこに置く?」を見て下さい。