前置詞と定冠詞の結合形
定冠詞が名詞の表わす人や物を「その…」と特に強く指示しない場合は,前置詞と定冠詞が結合した形が使われます。主なものを以下に示します。

前置詞と結合する定冠詞は,男性・中性3格の dem,中性4格の das,女性3格の der の3つだけで,dem は –m,das は –s,der は –r という形で結合します。つまり前置詞と定冠詞の結合形の語尾の –m は dem,-s は das,-r は der なので,例えば zum なら zu dem という結合前の形が簡単に分かります。
ただし,an, in, von のように –n で終わる前置詞が dem と結合する場合は前置詞の –n が落ちて,例えば in+dem なら im となるので注意して下さい。これは an, in, von+dem の場合だけで,それ以外は前置詞+ –m/-s/-r の単純な結合です。
Er geht allein ins Kino.
彼は一人で映画を観に行く。
Ich bringe den Koffer zum Bahnhof.
私はそのスーツケースを駅へ運ぶ。
▶ 前置詞と結合するのは,上記のように dem(男性・中性3格), das(中性4格), der(女性3格)の3つだけです。これ以外の不定冠詞,所有冠詞,kein等は結合しません。
時を示す前置詞
um(英 at):um 10 Uhr 10時に
an(英 on)+3格:am Montag 月曜日に
am は an dem の結合形
▶ 曜日はすべて男性名詞で,前置詞はいつも am です。am Morgen(朝に),am Nachmittag(午後に)などもamです。
in(英 in)+3格:im August 8月に
im は in dem の結合形
▶ 月の名前はすべて男性名詞で,前置詞はいつも im です。im Winter(冬に)など,季節もimです。
vor(before)+3格:vor dem Essen
食事の前に
nach(after)+3格:nach dem Essen
食事の後に
seit(since)+3格:seit einem Jahr
1年前から
von … bis …:von Montag bis Freitag
月曜から金曜まで
▶ an, in, vor は「3格または4格と結びつく前置詞」ですが,時を示す場合は必ず+3格です。
「…へ」を表わす前置詞
「…へ」を表わす前置詞は,英語では基本的に to だけですが,ドイツ語では英語の to に当たる zu の他に nach と in も使います。zu と nach は+3格,in は+4格です。
① 人のところへ行く:必ず zu+3格
Er fährt zu seiner Großmutter.
彼は祖母の家へ行く。
② 無冠詞の地名・国名:必ず nach
Ich fahre nach Deutschland.
私はドイツへ行きます。
③ 定冠詞付きの国名:必ず in+4格
(女性名詞と複数形の場合は in die …、男性名詞の場合は in den …)
Wir fahren in die Schweiz.
私たちはスイスへ行きます。(女性名詞)
Fahrt ihr in die USA?
君たちは米国に行くの?(複数形)
Sie fahren in den Iran.
彼らはイランに行く。(男性名詞)
④ 建物・施設の場合:zu+3格の場合と,in+4格の場合があります。
《zu+3格》 Er fährt zum Flughafen.
彼は空港へ行く。
zu を使うのは他に,zum Bahnhof(駅へ),zur Bank(銀行へ),zum Rathaus(市庁舎へ),zur Uni(大学へ)など
《in+4格》 Sie geht in die Mensa.
彼女は学食に行く。
in を使うのは,in die Bibliothek(図書館へ),in die Disco(ディスコへ),ins Kino(映画館へ),ins Konzert(コンサートへ),in den Park(公園へ),ins Restaurant(レストランへ), ins Theater(劇場へ),など
⑤ 慣用句(例外):Ich gehe nach Haus(e).
私は家に帰ります。
これは慣用句なので,このまま覚えて下さい。
zu と in の使い分け
ほとんどの名詞はどちらを使うか決まっていますが (例えば zum Bahnhof, zum Flughafen, ins Kino, ins Theater, ins Konzert など) ,zu も in も使える名詞もあります。例えば Schule(学校), Universität(大学),Kirche(教会) などです。その場合も zu を使うか in を使うかで意味 (というか焦点の当て方) が違うことが多く,例えば in die Schule とか in die Kirche だと,建物の中に入ることに焦点が当たるのに対して,zur Schule や zur Kirche だと「授業を受ける」とか「ミサに出る」のような意味になることがあります。
「da+前置詞」と「wo+前置詞」
① da+前置詞
前置詞の目的語が「物・事」を指す人称代名詞の場合は mit ihm, für sie のような「前置詞+人称代名詞」ではなく,damit, dafür のように「da+前置詞」という形が使われます。人称代名詞が da に置き換えられて,前置詞と結合すると考えて下さい。da の部分が「それ」という意味を持つので,「da+前置詞」は「それ+前置詞の意味」になります。例えば dafür は da(それ)+für(…のために)なので,dafür は「それのために」という意味です。
なお,前置詞が母音で始まるときは発音しやすいように da と前置詞の間に r を入れて「dar+前置詞」という形になります。
a) Ich plane eine Reise nach Europa.
Jetzt jobbe ich dafür.
私はヨーロッパ旅行を計画中です。
今そのためにバイトしてます。
b) Am Fenster steht ein Karton.
Meine Katze schläft darin.
窓際に段ボール箱があります。
私の猫はその中で寝ています。
a文の後半を代名詞を使わずに書くと,Jetzt jobbe ich für die Reise. (今,私はその旅行のためにバイトしています) になります。die Reise は女性名詞なので,女性4格の人称代名詞 sie を使って für sie と書きたくなりますが,Reise は「物」なので dafür という「da+前置詞」になります。
b文の後半も代名詞を使わなければ Meine Katze schläft in dem Karton. (私の猫はその箱の中で寝ています) ですが,代名詞にする場合は Karton は「物」なので,in ihm ではなく darin になります。
※「人」を指す人称代名詞は前置詞と結合しません。以下の例文では für sie(彼女のために)を dafür に置き換えることはできません。
Maria wird morgen 5.
Ich kaufe ein Geschenk für sie.
マリアは明日5歳になる。
私は彼女のためにプレゼントを買います。
② wo+前置詞
疑問詞の was も前置詞と結びつく場合は「wo+前置詞」という形になります。この wo は「どこで」という疑問詞ではなく,was(何)が変化した形なので,「wo+前置詞」は「何+前置詞の意味」になります。例えば wofür はwo(何)+für(…のために)なので,wofür は「何のために」という意味です。
「wo+前置詞」も前置詞が母音で始まるときは wo と前置詞の間に r を入れて「wor+前置詞」という形にします。
Womit fährst du zum Flughafen?
君は何を使って空港へ行くの?
Worüber sprechen sie?
彼らは何について話してるのですか?
※über は「…の上方で/上方へ」という意味のときは「3格または4格と結びつく前置詞」ですが,「…について」という意味でも使います。この場合は常に4格の名詞と結びつきます。次の例文で確認して下さい。
Wir sprechen über das Problem.
私たちはその問題について話す。
前置詞(2)のQ&A
- Q「…へ」というときにどの前置詞を使うのかがよくわかりません。
- A
「…へ」という意味を表わす前置詞には nach, zu, in があります。「…」のところに何が入るかによって使い分ける必要があります。
1) 無冠詞の地名,国名の場合は必ず nach
nach München, nach Deutschland, nach Japan など
※地名や国名ではありませんが「家へ」という場合もnach Hause(またはnach Haus)です。この場合もHausは無冠詞ですね。2) 定冠詞付きの国名の場合は必ず in+4格
in die Schweiz, in die USA, in den Iran など※ほとんどの国名は中性名詞で,冠詞をつけませんが,女性名詞,複数名詞,男性名詞の国名が少数あり,それらには定冠詞がつきます。例えばスイスは女性で die Schweiz,アメリカ合州国は複数で die USA,イランは男性で der Iran です。(男性は4格で der→den になるので注意!)
3) 「人」の場合は必ずzu+3格
zu dir(君のところへ) zu meiner Mutter(私の母のところへ) zum Arzt(医者のところへ)などここまでは100%の条件ですから,必ず覚えて下さい。
4) 建物,施設の場合は zu+3格 または in+4格
zuもinも両方使える場合もありますが,ほとんどは慣用的にどちらを使うか決まっていますので,出てくるたびに名詞と一緒に覚えてしまいましょう。いくつか具体例を挙げておきます。zum Bahnhof(駅へ) zum Flughafen(空港へ) zum Rathaus(市庁舎へ) zur Uni / zur Universität(大学へ) zur Bank(銀行へ)
ins Kino(映画館へ) ins Theater(劇場へ) ins Restaurant(レストランへ) in die Disco(ディスコへ) in die Mensa(学食へ)
- Q教科書の「…へ」を表わす前置詞の項目には「人のところへ行く場合は必ず zu」だとありました。説明の中で「…の家へ行く」のときも「zu+3格」を使って表わすということでしたが,単に「人のところへ行く」場合と「…の家へ行く」場合の違いは文脈だけで判断するのですか?
- A
日本語では「田中さんの家へ行く」とか「保健室へ行く」のように建物・場所を行く先として挙げることが多いですが,ドイツ語では「人」を行く先にします。だから「家」とか「室」のような語は使わずに「田中さんのところへ行く」とか「看護師さんのところへ行く」のように言います。日本語では「医者に行く」という場合もイメージされるのは医師の先生ではなく,医院の建物ですよね。だから「田中内科に行く」とも言います。ドイツ語では Ich gehe zum Arzt. です。Arzt は医師という名詞です。「人」なので,「…へ」は必ず zu です。ドクターの名前を出すなら,Ich gehe zu Dr. Tanaka. です。Web Drillに出て来る Sie geht zum Zahnarzt.(彼女は歯医者に行く)という文の Zahnarzt も歯科医院の建物ではなく,歯科医師という人なのでzu を使います。
日本語では例えば「(大学の教室の後ろの席に座っている)Sissi のところへ行く」と「Sissi の自宅へ行く」は違う文になりますが,ドイツ語ではどちらも Ich gehe zu Sissi. です。
私たちは基本的に日本語で考えるので,どうしても「家」と言いたくなりますが,ドイツ語ではこういう場合に「家」という語は使わないと思って下さい。ドイツ語に慣れてくれば自然に「家」なしのドイツ語が出て来るようになります。
- Q国名は普通は無冠詞のはずなのに一部の国名には冠詞がつくって本当ですか?
- A
地名,国名は基本的に中性名詞で,冠詞はつきません。しかしごくわずかですが,男性名詞,女性名詞,複数名詞の国名があり,それらには定冠詞がつきます。
男性名詞:der Iran(イラン),der Irak(イラク)など
女性名詞:die Schweiz(スイス),die Türkei(トルコ),die Ukraine(ウクライナ),die DDR(東ドイツ)など
複数名詞:die USA(アメリカ合州国),die Niederlande(オランダ),die UdSSR(ソ連)など
東ドイツとソ連はもう存在しませんが,歴史では出てきます。
- Q教科書のS.26に Ich fahre nach Deutschland.(私はドイツへ行きます。)と
Wir fahren in die Schweiz.(私たちはスイスへ行きます。)の2つの文があります。
無冠詞の場合には nach,定冠詞付きの場合には in+4格を使うのは分かったのですが,nach を使った Ich fahre nach Deutschland. と in を使った Wir fahren in die Schweiz. の間にはどのようなニュアンスの違いがあるのですか? - A
ニュアンスの違いはありません。無冠詞の国名の時は nach,定冠詞付きの国名の時は in+4格と文法的に決まっているので,これ以外の言い方はできません。ドイツには in+4格が使えないし,スイスには nach が使えないので別の形になっているだけで,意味は同じです。
- Q教科書26ページに Ich bringe den Koffer zum Bahnhof. という文がありました。動詞のパートナーである語は文末に来ると思って,den Koffer は文末ではないかと考えたのですが,これは例外なのでしょうか?
- A
「動詞のパートナーは文末」というのをきちんと覚えていてくれて嬉しいです。確かに den Koffer は動詞のパートナーですが,bringen(英語の bring )という動詞は「持って行く(来る),連れて行く(来る)」という意味の動詞なので「…を」だけでなく「…へ」という要素も必要です。つまりこの文では den Koffer だけでなく,zum Bahnhof も動詞のパートナーなのです。ですからどちらも文末に置くことができます。ではどちらを文末に置くかですが,それは日本語の場合と同じで,どちらを文末に置くかによって意味が異なります。
a) Ich bringe den Koffer zum Bahnhof.
私はそのスーツケースを駅に運ぶ。
b) Ich bringe zum Bahnhof den Koffer.
私は駅にそのスーツケースを運ぶ。「スーツケースを」と「駅に」の順番が日本語訳と1対1に対応していることに注目して下さい。どの言語でも文の中では「古い情報→新しい情報」という順番になるので,a)文では,ドイツ語でも日本語でも「そのスーツケースを」が既知の古い情報で,「駅へ」が未知の新情報です。つまり,スーツケースをどこかへ運ぶことは聞き手も知っていて,どこへ運ぶかが新情報(=言いたいことの中心)ということですね。b)文ではそれが逆で,駅へ運ぶことはわかっていて,何を運ぶかが新情報(=言いたいことの中心)です。
というわけで,語順で迷ったら,日本語と同じ順番にドイツ語の語句を並べて下さい。